小夜啼鳥が愛を詠う
ママの目は真実を語っていた。
……じゃあ、不倫じゃなかったんだ。

何となくホッとするような……でも同時に、じゃあどうしてママはその人と結婚しなかったんだろう?……と、疑問に感じた。

「聞きたいなら、聞いてもいいのよ?」

ママはそう言ってくれたけど、私はちょっと考えて首を傾げた。

「聞きたくないわけじゃないし、そりゃ興味はあるけど……今は、いい。」

そう答えると、ママは息をついた。

「……そう。じゃあ、また、ね。」

ホッとしたような、残念なような……。

ママは、そんな私の手をそっと握った。

「知りたいと思うのは当たり前のことよ。私にも……パパにも、遠慮することじゃないから。さっちゃんが知りたいなら何でも教えてあげる。逢いたいなら逢わせる。……でも、あちらのご家族を傷つけない配慮は忘れないでね。」

「……そっちより……パパが悲しむよ……。」

気持ちはうれしいけど、やっぱり私には、深い愛を注いでくれるパパに対する罪悪感をぬぐえそうになかった。

「別に悲しくないと思うけど。さっちゃん、パパを見くびり過ぎ?パパは、懐(ふところ)の大きいヒトよ。」

ママがそう言ったら、玲子さんは真顔で首を傾げていた。

……パパと玲子さんって……幼なじみとは言っても、ほんと、合わないんだろうな。



その夜は、なんとなく、パパのそばで過ごした。
気づいてるのか気づいてないのか、パパはお酒も飲んでないのにご機嫌だった。

「さっちゃんは、元旦もボランティア?……じゃあ、初詣は、夜中に行くか。どこがいい?」
「いつもの氏神さんでいいよ?甘酒飲むー。」
「パパも。樽酒飲むー。」

いくつもの酒蔵を氏子に持つ氏神さんでは、毎年何種類かの樽酒が無料で振る舞われるし、早く行けば干支の塗り升がもらえる。

「須磨には行かないの?」
「うん。薫くんもボランティアだし。……今年は、成之さんとおばあちゃんが行かれるんじゃないかな?」

何と言っても、35年ぶりの新婚生活の続きだし。

「……よし。」
パパが小声で小さくガッツポーズをしていたけれど、気づかないふりをした。
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