小夜啼鳥が愛を詠う
「……だって……光くん……だって……」
子供のように私はそう繰り返した。

「だってだってだって。……さくら女はさ、小門兄を自分との関係でしか見てないからわかんないの。もうちょっとロングで引いて見ればわかる。小門兄にとって一番大事なのはお母君。二番目は、誰?」

野木さんは、私を揶揄しながらも、結論に導いてくれるつもりらしい。

多少の反発はあるけれど、私は野木さんの誘導に従った。

「……薫くん。」
その名前を口に出すだけで、私の心がちょっとほぐれた。

野木さんはそんな私を見て、苦笑した。
「じゃあ、その薫くんがずーっとずーっとずーっと恋してやまないヒトは、誰?」

「……。」

私?

私……私でいいのよね?

そうは思うのだけど、何となく答えられなかった。
さすがに、ほら、気恥ずかしいというか……。

でも野木さんは容赦なかった。
「ほら。誤魔化さない。気づかないふりしない。わかってるんでしょ?」

「……私。」
言いたくないけど、嫌々そう言った。

野木さんは、うなずいて、淡々と続けた。
「そう。さくら女。だから小門兄は、さくら女を自分のモノにしないの。恋しくても愛しくても、さくら女には手を出さないの。さくら女の騎士のつもりなんじゃない?小門弟が育つまで。」

……信じられない。
ううん、信じたくない。

「そんな話……今さら……。」

私はそう言って、気づいた。

今さら、なんだ。
私、今、困ってる。

ちょっと前なら、うれしい話のはずなのに。
光くんが私のことを、ちゃんと想ってくれてたって聞いて……飛び上がって喜びたいぐらいうれしい話なのに。

でも、今、私……困ってる。

こんな話をしていても、脳裏に浮かぶのは、光くんじゃなくて薫くんなんだ……。

「さくら女ってば、欲張り。今だから、言うの。小門兄の思惑通りに、ちゃんとさくら女が小門弟に惚れたから。今さら聞いても、小門兄に戻ることもないでしょ?」

野木さんはそう言って、笑った。

「複雑なの。野木も。小門兄の望みが叶うといいなあとは思うけど……長い目でみれば、それって、小門兄の不毛な愛が増えるだけじゃない?実の母と、弟の嫁。不憫だわ。不憫過ぎて……小門兄から目が離せない。」
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