小夜啼鳥が愛を詠う
「そっか。残念。俺、初めて見た時から、桜子さんに憧れてたんですよ。……最初はてっきり光さんの彼女かと思ったけど……。そっか。薫かー。」

ううう……。

ろくに返事できず、私は、ただ口をパクパクしていた。

「まあ、俺は憧れだからいいとして、妹がね、けっこうマジみたいなんですよ、薫のこと。」

未来くんは、スパイクのつま先でトントンと地面を蹴りながらそんなことを言い出した。

「……みゆちゃん?」

ドキッとした。

「うん。3月に帰国して、4月から同じ中学に通う気してる。……桜子さん、それまでにちゃんと、薫、つかまえたほうがいいんじゃないかな。みゆ、けっこう……しつこいよ?」

未来くんはそう言い置いて、走って行った。

……つかまえるって……一体……。

え?
それって、私に……薫くんに告白しろってこと?

ええっ?

告白……。

考えたことなかった……。

どうしよう。

でも、確かに……みゆちゃんは……脅威かも。

うーん……。

「桜子?どしたー?」
「きゃっ!薫くんっ!」

いつの間にか薫くんが目の前に居た。

あわわわ!
気づかなかった……。

「きゃ?……こんなとこで寝ぼけとったら風邪ひくで。」

薫くんはそれだけ言って、走り去ってしまった。

……行っちゃった。

未来くんが苦笑してこっちを見てる。

私、そんなにわかりやすく惚けてたのかな。

恥ずかしい。

私は誰にともなく会釈して、そそくさと退散した。

確かに、身体、すっかり冷えちゃったかな。

パパのお店に寄っていこうっと。
今日は光くんもいるはず。

最近は、常連さんだけじゃなく、光くん目当ての新規のお客さまも増えた。

本気でパパの跡を継ぐ気なのかな。

バイト代の受け取りを頑なに拒否する光くんに、仕方なくパパはバイト代分を積み立てている。

もし、このまま光くんのお手伝いがずっと続いて、積立額があの土地の評価額に達したら光くんに譲るつもりになってるみたい。
何十年後になるのか知らないけど。

……てか、光くん、大学生になっても……大学を卒業しても続けるのかなぁ。



お店の前に行くと、ガラス越しに光くんと目が合った。

光くんは、すぐにドアを開けて迎え出てくれた。
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