小夜啼鳥が愛を詠う
「いらっしゃい。さっちゃん。遅かったね。……身体、冷えちゃったんじゃない?」
「うん。冷えた。さぶい。コーヒーにコニャックたらしてほしい。」

そうおねだりすると、光くんは私の両手をそっと包み込むようにやんわりと握った。
ニットの手袋越しにもわかるぐらい、光くんの手があったかい。

「マスターに頼んであげる。おいで。」
光くんはそう言って、私をエスコートするようにお店へといざなった。

「パパ~。冷えた~。」
「……いらっしゃい。」

パパは、半ばあきらめたように苦笑して迎えてくれた。

まあ、いくら幼なじみだからって、いつまでも子供ように手をつなぐのはおかしいのはわかってるんだけどね。
でも、光くんがいつも当たり前のように手を取ってくれるから……やっぱり、うれしくて。
真似してか、薫くんも手をつないでくれるし。

ごめんね、見逃してね……と、心の中で謝って、パパの気持ちに気づかないふりをした。

「さっちゃん。これ。」
光くんが膝掛けと、温かいほうじ茶を持ってきてくれた。

「ありがとう~。あったかぁ~い。」
なめらかな志野焼のお湯呑みを両手で持って、ホッとした。

しばらくぼ~っとほうじ茶を飲んでると、パパが話し掛けてきた。

「さっちゃん、体調悪い?」
「え?……ううん。寒かっただけ。」

そう返事したけれど、パパは首を傾げた。

「……じゃあ、落ち込んでるのかな。」

それは……否定できないかも。

みゆちゃん、かわいかったなあ……とか思い出すと……どうしても暗い気分になっていく。

言葉にならないもやが、ちゃんと形になるまで、私は独りでぼーっとしていた。

パパも光くんも、それ以上かまわずに、そっとしといてくれた。


すっかり冷めたほうじ茶をようやく飲み干した後、パパがおもむろに私のコーヒーを準備し始めてくれた。

いつものブレンドじゃなくて、見慣れない小さな瓶からコーヒー豆を少し足してくれてるのが見えた。

ごりごりとゆっくりゆっくりコーヒーミルのハンドルを回すパパ。
銅のポットに沸くお湯を、鉄のドリツプポットに注いでから、ドリッパーに注いでくれた。

パパはポットもドリッパーも、いろんな素材のものを豆とのバランスで使い分けてるので、光くんも興味津々で注視してる。

ほんと、光くん、熱心だなあ。
< 201 / 613 >

この作品をシェア

pagetop