小夜啼鳥が愛を詠う
「ありがとう、光くん。」

「光。俺のも!」
薫くんは、自分のベンチコートをパタパタと脱いで光くんに手渡した。

「はいはい。」
光くんは、薫くんからコートを受け取ると、私のコートと一緒に奥へと持って行った。


「桜子。目ぇ赤い。……光に泣かされたんけ?」
薫くんは私の目を覗き込んで、そう聞いた。

てか、薫くんの顔が……近過ぎてくっつきそうで……ドキドキする。

ううう。

一気に緊張した私の目の端にパパが苦笑いしてるのが映った。

……たぶん、パパにはわかってるんだろうな……私が薫くんのことで泣いたって。

お前が言うか!……って、思ってるのかな。

私はかすかに首を横に振った。
「ううん。光くん、優しいよ。」

「あ、そう。」
明らかに薫くんは鼻白んだ。

……しまった。

私、何、言ってんだか。

ダメすぎる……。

間が持たず、仕方なくコーヒーにまた口をつけた。
さっきまであんなに美味しく尊く感じたのに、今はもう、味も香りもよくわからなくなってしまった。

「何か……違う。」
耳元に薫くんの声。

今度は、薫くんの鼻が真横に!

……だから、心臓に悪いってば!

「なあ、それ……いつものんと違う?」
薫くんが何を言ってるのか理解するまでにちょっと時間を要した。

あ、……コーヒー、ね。

「うん。いつもと違う豆を入れてくれたみたい。それと、香り付けに……ちょっと……」

私がそう言うと、薫くんの瞳がキラッと輝いた。

「マスター。俺も、これ、欲しい~。」

パパは苦虫を噛み潰したような顔を、無理に笑顔にすり替えた。
「ダメ。さすがに小学生には、ダメです。……コニャックなしなら、いいですよ。」

「……ちぇ~。」
薫くんは不満そうだったけれど、パパが豆を挽き始めると、鼻をくんくんさせた。

「違う。……甘い匂いする。」

「スペシャルですよ。……いつもの倍の値段になるかな。」
パパはしれっとそんなことを言った。

「へえ~~~。」
おじいちゃんの成之さんのツケで飲んでる薫くんは、他人事のように驚いて見せて、涼しい顔をしていた。

「……2人とも鷹揚だねえ。」

光くんが薫くんにお水とおしぼりを持って来てくれながらそう言った。
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