小夜啼鳥が愛を詠う
「バイト代受け取らない光くんも、充分お金に鷹揚だと思う。」

私がそう言ったら、光くんはニッコリほほえんだ。

「さっちゃんだって、去年の今頃、ボランティアしてたよ?……似たもの……なんとやら、だね。」

……似たもの……えーと……。

もしかして、光くん、薫くんを挑発してるのかな。

何となく薫くんの目が険しくなったと思ったら、
「……光は腹黒いだけで、桜子は八方美人なんやろ。」
と、言われてしまった。

……八方美人……。

さすがにショックで私はうつむいた。

泣きそう。
やばい。

コーヒーを飲んで落ち着こう。

そう思って、カップに手を伸ばしたけど……指先が震えてたので諦めた。
大好きなカップを割ってしまったら大変。

両手をぎゅっと握って震えを隠していたら、その手に光くんの手が重ねられた。

「さっちゃん。まだ冷たいね。カイロあげようか?」
「……ありがとう。でも、大丈夫。膝掛けも、あるし……。」

光くんを見上げたら、また涙がこみ上げてきた。

気遣いが……心に沁みる……。

光くんは黙って頷くと、私の手を握ったままそっと膝に置いて、ブランケットを掛けてくれた。
優しいのに……光くんはすごく優しいのに……薫くんの不機嫌モードに拍車がかかりそうで怖かった。

「ドンマイ。さっちゃんは誰が見ても美人で、誰に対しても心から優しいよ。それをそんな風に言うなんて、イケズだね。薫。」

光くんはそう言って、薫くんの額を軽くつついた。

そして、ちょっと赤くなった薫くんに、光くんは頬を寄せて囁くように聞いた。

「……誰か、さっちゃんに手を出そうとしてた?」

薫くんはしばらく無言だったけど、ボソッと小声で言った。

「そんなんちゃうけど……未来さん、桜子のこと、ずっと見てる……。」
「あ……。」

そっか。
佐々木未来くんは……そっか。

薫くん、気づいちゃったんだ。
未来くんの私への……淡い気持ち。

「桜子、知っとったんや。」
薫くんは、じとーっと私を見た。

「う……ん。さっき……聞いた……。」

知らないふりも、嘘をつくこともできなかった。
そんな目で見られたら……例え、自分が悪くなくても、ごめんなさい!って謝ってしまいそう。

うううう。

助けて……。
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