小夜啼鳥が愛を詠う
「へえ。未来くん、男らしいね~。玉砕覚悟で自分の気持ちを伝えたんだ。偉いね。……はい、どうぞ。」
光くんが軽やかにそう言って、薫くんにコーヒーを持ってきてくれた。

「……玉砕……。」
薫くんは怪訝そうに光くんを見た。

光くんはおどけて言った。
「だって、さっちゃんが誰を好きかなんて、一目瞭然。ね~?」

「光くんっ!」

ちょっ!
何、言ってくれるかなあ!

薫くん本人の前でそんな……やめて~~~~!

「あはは。さっちゃん、顔、赤い。今さら、照れなくてもいいのに。」

光くんは、こんな時でも、天使の笑顔を私には見せていた。

イケズなのに、なんで、そんなに楽しそうなの~~~~!
てか、こんな……パパのお店で……あら、いつの間にか、他のお客さま、いない……いや、でも、パパもいるのに……。

どう文句を言ってやろうかと、光くんを睨んでいると、荒々しい椅子の音。

振り返ると、薫くんが立ち上がって、踵を返していた。

薫くんは無言のまま、店から出て行こうとした。

「おいおい。コーヒー……。」

パパが呆れたようにそうつぶやくと、薫くんはすごい形相で振り返り、コーヒーカップに手を伸ばした。

カップを割っちゃう勢いだったので、思わず目をつぶって肩をすくめたけれど……薫くんは、まだ熱いコーヒーを一気に飲もうとしたみたい。

「あつっ!」

……そりゃ、さすがに……無理よ……。

「薫くん、大丈夫?」
慌てて、水の入ったグラスを薫くんに差し出した。

けど薫くんは、私に一瞥もせず、コーヒーカップを持ったまま、お店から出て行ってしまった。

「おーい。コーヒーカップ~……行っちゃったよ。」
アンティークのコウルドンを持って行かれてしまって、なす術もなく、パパは光くんを見た。

光くんは、肩を震わせて笑いをこらえていた。


「弟が失礼して、すみませんでした。マスター。ちゃんと明日、取り返して持ってきます。」

やっと落ち着くと、光くんは、パパにそう謝った。

パパは苦笑した。

「いや。むしろ失礼なのは、光くんじゃない?……弟を煽って、楽しむなんて、趣味悪いな。」

「……うーん。そんなつもりでもなかったんですけどね。……むしろハッパかけようと思ったのに、ちょっとニブすぎない?薫。何でわかんないかなあ。」

光くんはそう言って、薫くんの座っていた席を片付け始めた。
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