小夜啼鳥が愛を詠う
「まあ、仕方ないんじゃない?三つ子の魂百まで、だろ。薫くんが生まれた時には、もうさっちゃんには光くんしか見えてなかったんだし。」
「パパ!」

当の本人の光くんに、何てこと言うの!
てか……、なんで2人はそんな話をいけしゃあしゃとしてるの!

恥ずかしくて、私は涙目でパパを睨んだ。

「だって……ねえ?」
パパが光くんに、同意を求めるように目配せした。

光くんもまた、肩をすくめて見せて、パパにうなずいた。
そして、私のほうを向いて、極上の笑顔で言った。

「ありがとう。僕もさっちゃんが大好きだよ。あーちゃんと、薫の次に。」

……。

ブレないわ、光くん。

「うん。……知ってた。」
そう答えたら、ホロリとまた涙がこぼれた。

わかってる。

わかってるのに……面と向かって言われると……不憫だわ、光くん。
不毛だ……。

せめて、私より好きなヒトが……普通に恋愛対象となりうる女性なら……私は、光くんの恋の成就を心から願えるのに。
よりによって、実の母親と、実の弟って……ないわぁ。


「昔ね、あーちゃんがまだ高校生で、彩瀬パパがまだ生きてた時にね、」
私の涙をハンカチでそっと拭いながら、光くんが話し出した。

「うん。」
「おばあちゃんが、あーちゃんに、パパがあーちゃんのことを好きってバラしちゃったんだよね。」
「……うん。」
「そしたら、あーちゃんは、自分も、彩瀬の次にパパのことが好き、って返事したんだ。」

……それって……今の光くんと同じ……。

「おばあちゃんはガッカリしたけど、パパはむしろ安心したんだって。あーちゃんらしくて。」
「……何となく、わかる。私も、今、光くん、ぶれないなあ、って思ったもん。……私は、光くんパパのようには、なれなかったけど。結局、あきらめちゃった。……ごめんなさい。」

ついそう謝ってしまった。

光くんは、一瞬キョトンとして、それからクスクス笑った。

「そっか。僕、今、さっちゃんにフラれて、失恋したんだね。」

え?
なんで、そうなるの!?

「失恋て……そんな……。」
もちろんそんなつもりはなかったので、オロオロした。

でも光くんは、えらくご機嫌さんだ。
「ありがとう。さっちゃん。ずっとそばにいてくれて。ずっと見守ってくれて。これからも、よろしくね。」

「え……これから……も?」

ちょっと身構えた。
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