小夜啼鳥が愛を詠う
「あれ、行っちゃった。」

光くんは野木さんにひらひらと手を振ったけど、野木さんは無表情で遠くから会釈した。

……この2人って……一体……。
とりあえず、普通の関係じゃないな、と。



担任が戻ってくると、ホームルームが始まった。

光くんと一緒に司会を仰せつかり、各委員と班分けをした。
来月末には修学旅行もあるので、仲良しグループの保守にみんな必死。
興味なさそうな光くんでさえも、私と離れまいと、ムキになっていた。

放課後、担任の呼び出しで進路指導室へ連行された。
てっきり、今朝の光くんの生活態度を注意されるんだと思ってた。
でも担任の心配は、そっちではなかった。

「小門の母親は、高校一年で休学して、出産したんだったな。……お前らは、失敗するなよ。」

担任の心ない言葉に、光くんは表情を消し、担任に対して完全に心を閉じてしまった。

無言で進路指導室を出てしまった光くんに、担任は唖然としていた。

「……いったい、あいつは、何なんだ。どういう教育を受けてきたんだ。」

ようやく落ち着いた担任は、私にそう問い詰めた。

私は、なるべく淡々と述べた。
「いえ。今のは、先生が悪いと思います。光くんの出生を『失敗』と仰ったんですよね?……存在を全否定されて、光くん、傷ついた顔してました。……飄々としてるように見えますけど、すごく感受性が強いんです。」

……本当は、愛するママを悪く言われて怒ってるんだと思うけど、私は担任に反省を促した。

担任は、動揺して言い訳めいたことを言っていたが、最後には私にとりなしを頼んだ。

「せめて大人の対応をするように、説得します。」
私はそう引き受けて、やっと担任から解放された。

……新年度を迎えるたびに、周囲と軋轢を起こす光くんに、私もだいぶ馴れたかもしれない。



教室に戻ると、光くんが待っていた。

「純喫茶マチネに薫が来てるって。一緒に行こう。」

薫くんが!

「うん!」
ついつい声が弾んだ。

「 いらっしゃい……おかえり。」
お客さまを迎えるマスターの声が、優しいあったかいパパの声に変わった。

「ただいま。」

パパにそう言ってから、キョロキョロ。

あれ?
薫くんの姿が見えないんだけど。

「薫くんなら……オトモダチに連れ出されたよ。カワイイ女の子。」
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