小夜啼鳥が愛を詠う
パパの言い方は、ちょっと……いや、かなりイケズだった。

むっ!
女の子?
しかも、カワイイ、って?

「ふ~ん?どこの子?」
光くんはそう聞きながら、スマホをいじり始めた。

「こらこら。邪魔しちゃダメだよ。真面目な話してるだろうから。」
パパが慌てて光くんを止める。

「真面目な話って……。」

何だか、不安になってきた。

「……ほら、あの子。佐々木未来くんの妹さん?……泣いてた。」
「みゆちゃん……。」

うわぁ。
それは……。

ますます心配になってきた。


光くんは、無言でスマホを操作して耳に宛て、それから私の肩をポンポンと叩いた。

「邪魔します。」

パパの非難にキッパリ逆らって、光くんは薫くんに電話をかけた。

「薫?誰と何してるか、さっちゃんに報告しに戻っておいで。こっちも泣いてるよ。」
「え……。」

泣いてない。

なのに、光くんはそれだけ言って、電話を切った。

「……光くん……横暴……。」

そう言ったら、光くんは苦笑した。

「でもさっちゃん。今にも泣きそう。……ほっとけないよ。」

そんな……こと……ないもん……確かに、心配だけど……確かに、胸が痛いけど……確かに……泣きそうだけど……。


「やれやれ。お客さまの迷惑にならないように、頼むよ。」

パパは肩をすくめて、窓の外を見た。

「おや。」

その声に釣られて、光くんが鋭い目を向ける。

……そんな怖い顔して……もう……。

くすぐったいような気持ちになって、私も振り返る……と……あれ?

薫くんじゃなかった。


「あ……。いらっしゃいませ。」
気の抜けたように、光くんがそう言った。

……いやいや、今、光くん、学ランだから。
お店のヒトじゃないから。

パパがクスッと笑った。

「いらっしゃいませ。いつものお席でよろしいですか?……光くん、手伝うなら着替えておいで。」

いつもの……ってことは、一見(いちげん)さんじゃあないんだ。

ハーフっぽい、彫りの深い、素敵なヒト~。
と、見とれてると、その男性は笑顔でうなずいた。

「こんにちは。マスター。曲のリクエスト、いいですか?」

……席に着く前に、まず、BGMを注文?
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