小夜啼鳥が愛を詠う
「えー!やだよ!眠いよ。薫だけ、早く出てよ。」
光くんは、全身で反対した。

けど、薫くんはむしろ不思議そうに言った。
「何で?朝早いん、気持ちいいやん。桜子は学校で受験勉強しとったらええやん。光は……ほな、寝といたら?」

……簡単に言ってくれちゃうなあ。

ついつい苦笑が漏れた。

まあでも、近いとは言っても、中学と高校は別の区画にあるし、見えるわけでもない。

毎日逢おうと思ったら、多少の無理は必要なのかもしれない。

「わかった。朝練タイムに付き合う。でも、放課後は、待たない。パパのお店にいるから、部活が終わったら寄って。……光くんも、そのほうがいいでしょ?」

自ら監視付きの檻の中に入ることになるけど、私、受験生だし、それでいいか。

……受験勉強しない光くんは、たぶん空手の日以外はパパのお店を手伝うだろうし。

光くんはため息をついて、苦笑してうなずいた。
「折衷案だね。了解。仕方ない。朝のさっちゃんの勉強に、つきあうよ。」

「え!?それ、めっちゃうれしいっ!ありがとう~~~!」

光くんの頭の中がどうなってるのかよくわからないけど、どんな参考書よりも、教師よりも、確実に理解できる教え方をしてくれるのだ。
これで、受験に勝ったも同然……かもしれない。

はしゃぐ私に薫くんはくしゃっと顔をゆがめた。
「しゃーねーな。ほな、それで。」

そして、私の手を取った。

……あ……やっぱり、これからも、手はつなぐんだ。

多少……いや、かなり照れくさいんだけど……。

「じゃあ早速今日から。……どうせ、薫、部活に参加する気でしょ?」

そう言いつつ、光くんも私の鞄を取り上げて、空いた手をつないだ。

……こっちも……。

「そのつもりや。昼飯も持ってきた。」
薫くんはそう言って、つないだ手をぶんぶん振った。

負けじと光くんも、手を振るもんだから、私たちは子供のようにはしゃぎ笑った。




楽しい気分に水をさしたのは、冷ややかな声。

「捕獲された宇宙人みたい。」

真新しい、少し大きなセーラー服を着たみゆちゃんは、憎まれ口を叩いても、かわいらしかった。

宇宙人って……私のこと?

……嫌われたもんだなあ。
< 242 / 613 >

この作品をシェア

pagetop