小夜啼鳥が愛を詠う
玲子さんの表情が微妙に変化した。
「……お経をわかりやすい言葉に変えた歌よ。」
口角を上げてはいるものの、その瞳に翳(かげ)りを感じた。
「じゃあ、お仕事中?……邪魔して、ごめんなさい。ほら、薫くん、幽霊じゃなかったって、お友達に教えてあげられてよかったね。行こう。」
私はそう言って、薫くんの腕を少し引っぱった。
「いつから歌ってたん?」
薫くんは、しつこく食いさがった。
玲子さんは、ちょっと笑った。
自然な笑顔に、何となくホッとした。
「いつから……うーん。どうかな。ここに入ったのは今日が初めてだけど、ここからもう少し東に行くと御堂があるの。先週はそこでも練習したわよ。あと、そうねえ……御堂から峠を超えたとこにおばさんの子供のお墓があるの。だから、もう25年前から?」
薫くんは目も口も大きく開いて、驚いていた。
25年はという歳月は、まだ中学に入ったばかりの私には計り知れない。
ましてや、薫くんには実感ないよね。
「さっちゃん。帰りはどうするの?なっちゃんがお迎え?……私、もうすぐ帰れるけど……車だし、送っていこうか?」
玲子さんがそう誘ってくれた。
私は思わず光くんを見た。
てっきり人見知りモードだと思った光くんは、確かにさっきより離れたところにはいたけれど、むしろ笑顔を貼り付けてうなずいた。
「そうさせてもらいなよ。暗くなる前に帰ったほうがいい。ほら、薫。僕らも、降りるよ。」
……感情の見えない笑顔。
笑顔なのに、近寄りがたい気がした。
「……あら。お友達も、送るけど?」
そう言った玲子さんの笑顔は……はっきり、怖かった。
腹芸、ってこーゆーのを言うのかな。
「いえ。ありがとうございます。僕らは歩いて帰ります。……すぐ麓なのに、車で送ってもらったりしたら、怪我でもしたんじゃないかと……祖母が驚きますので。」
光くんは、穏やかにそう言った……んだけど……。
最後、声が少し大きくゆっくりになった気がしたのは……気のせいじゃないような気がする。
怖い。
怖いよ、光くん。
人見知りモードじゃない。
これって、戦闘モードだ。
玲子さんの眉毛も一瞬ぴくりと動いた気がしたけれど、それでも笑顔をキープしてるのが何だか痛々しかった。
おばあちゃんを持ち出されると……かなわないんだろうな。
玲子さんは愛人、おばあちゃんは本妻だもんね。
「……お経をわかりやすい言葉に変えた歌よ。」
口角を上げてはいるものの、その瞳に翳(かげ)りを感じた。
「じゃあ、お仕事中?……邪魔して、ごめんなさい。ほら、薫くん、幽霊じゃなかったって、お友達に教えてあげられてよかったね。行こう。」
私はそう言って、薫くんの腕を少し引っぱった。
「いつから歌ってたん?」
薫くんは、しつこく食いさがった。
玲子さんは、ちょっと笑った。
自然な笑顔に、何となくホッとした。
「いつから……うーん。どうかな。ここに入ったのは今日が初めてだけど、ここからもう少し東に行くと御堂があるの。先週はそこでも練習したわよ。あと、そうねえ……御堂から峠を超えたとこにおばさんの子供のお墓があるの。だから、もう25年前から?」
薫くんは目も口も大きく開いて、驚いていた。
25年はという歳月は、まだ中学に入ったばかりの私には計り知れない。
ましてや、薫くんには実感ないよね。
「さっちゃん。帰りはどうするの?なっちゃんがお迎え?……私、もうすぐ帰れるけど……車だし、送っていこうか?」
玲子さんがそう誘ってくれた。
私は思わず光くんを見た。
てっきり人見知りモードだと思った光くんは、確かにさっきより離れたところにはいたけれど、むしろ笑顔を貼り付けてうなずいた。
「そうさせてもらいなよ。暗くなる前に帰ったほうがいい。ほら、薫。僕らも、降りるよ。」
……感情の見えない笑顔。
笑顔なのに、近寄りがたい気がした。
「……あら。お友達も、送るけど?」
そう言った玲子さんの笑顔は……はっきり、怖かった。
腹芸、ってこーゆーのを言うのかな。
「いえ。ありがとうございます。僕らは歩いて帰ります。……すぐ麓なのに、車で送ってもらったりしたら、怪我でもしたんじゃないかと……祖母が驚きますので。」
光くんは、穏やかにそう言った……んだけど……。
最後、声が少し大きくゆっくりになった気がしたのは……気のせいじゃないような気がする。
怖い。
怖いよ、光くん。
人見知りモードじゃない。
これって、戦闘モードだ。
玲子さんの眉毛も一瞬ぴくりと動いた気がしたけれど、それでも笑顔をキープしてるのが何だか痛々しかった。
おばあちゃんを持ち出されると……かなわないんだろうな。
玲子さんは愛人、おばあちゃんは本妻だもんね。