小夜啼鳥が愛を詠う
「それにしても……」

車に乗ってから、玲子さんがつぶやいた。

「さっちゃんの好きな光くん?想像と違ったわ。……怖い子ね。」
「うん。さっきの光くん、怖かった。」

学校ではあんなにかわいかったのに。
多重人格と思われるのも、仕方ないかもしれない。

「あの子、私のこと、めっちゃ睨んでた。……あんな綺麗な目で睨まれると、堪えるわ。」

なるほど、いつもの玲子さんはもっと元気というか……結構きついことをズバズバ言うヒトだ。
光くんに精神的ダメージを与えられて凹んでるのかしら。

「光くんって、ものすごく鋭いの。パパやママが何も言わなくても何もかも察知してるんだって。……玲子さんのことも、誰も何も言うわけないんだけど、わかっちゃったみたいね。家族想いだから、逆恨みしちゃってるのかなあ。」

さっきの光くんに違和感いっぱいで、私はそうこぼした。

玲子さんは皮肉っぽく笑った。
「逆恨み、ね。……たぶん私が成之を奪ったって思ってんだろうなぁ。奪われたのは私なのに。」

え?

私は玲子さんの言葉に驚いた。

そうなの?

びっくりしてる私に、逆に玲子さんも驚いたようだ。
「あれ?知らなかった?……私と成之、中学からつき合ってたのよ。」

ええっ!?

「中学って……」

驚きで絶句してると、玲子さんはちょっと笑った。

「ふふ。まさに、それ。さっちゃんと同じセーラー服で、光くんと同じ学ランの成之に一目惚れしたの。遅い初恋だったなあ。」

懐かしそうにそう言ってから、玲子さんは言った。
「私ね、成之しか好きになったことないの。……すっかり、初恋をこじらせちゃったのね。」

意味がわからない。
わからないけど、玲子さんがものすごく一途なことは理解した。

「あの……初恋相手とつき合ってて……今も好きで……どうして、結婚しなかったの?」

こんなこと聞いていいんだろうか。
変な罪悪感を覚えつつ、そう聞いてみた。

玲子さんは、悲しい顔になった。

「結婚する予定だったわよ。私が大学を卒業したら。……でも、その前に、成之が、心変わりしたの。成之は高校を卒業すると、地元企業で働き始めたわ。優秀な成之はすぐに社長の目に留まって……社長令嬢の婿にと望まれたの。」

「断れなかったの?パワハラ?」

「いいえ。断っていいから一度だけ会うよう懇願されたらしいわ。でも、その場で断る気で臨んだお見合いで、成之は恋におちたの。」
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