小夜啼鳥が愛を詠う
もつれた純情
翌朝、8時過ぎ。
エントランスの呼び出し音が鳴った。

こんな朝から誰?

首を傾げながらママがエントランスカメラのボタンを押した。
そこには光くんが笑顔で映っていた。

「おはよう。さっちゃん。学校、行こう。」

……ジョギングの途中で我が家に寄ることはダメって言ったのに……光くんは、毎朝、私と一緒に登校した。

そりゃうれしいよ。
でも、たぶん、私は薫くんの代役ぐらいの位置づけなんだろうなあ。

「じゃあね。光くん。休み時間にまた。」
光くんを教室に送り届けてから、自分の教室へと向かう。

「おはよー。さっちゃん。部活、決めた?」
椿さんは、すぐに私をさっちゃん、と呼び始めた。

「うん。帰宅部。椿さんと一緒ね。」
「いや。椿氏はお稽古事が忙しいから仕方ないとして、さくら女(じょ)はどこかに入らないと。建て前は、全員参加だし。」

野木さんは、なぜか私達をこんな風に呼んでいる。
男役志望の椿さんはわかるとして、私は不思議だったけど才女のイメージと言われると悪い気がしなかった。

薩摩弁の「おごじょ」とはまた違うのかしら?

「……うーん。じゃあ、光くんと相談してみる。野木さんは?どこに入部するの?」

今のところ、野木さんは光くんが普通にお話しできる数少ないお友達だ。
もし可能なら同じクラブでもいいだろう、と聞いてみた。

「野木は美術部一択!」

胸を張る野木さんに、椿さんが首を傾げた。

「へー?野木、オタクって言ってたから、漫研とか、文芸部とかやと思っとった。」

「だって!明田さんが顧問なのよ!お近づきできるチャンスなのに!」
野木さんは前のめりになって、拳をふるふると握ってそう言った。

へ?

「明田さんって……明田先生、うちの担任だから、近づくも何も……」

思わずそう突っ込んだら、椿さんもうなずいた。

「てか、明田と近づきたいなら、まずはクラスの委員長とかしたら?」

すると野木さんはパタパタと手を横に振った。
「そーゆーのはリア充に任す。野木にそんな目立つ役職、似合わないでしょ?」

そして、野木さんは笑顔で誘った。
「今日、美術部の活動日なの。時間あるなら、見学に行かない?まあ、野木は入部するけど。あ。椿氏は無理ね。うん、わかってる。さくら女と小門兄、どう?」

せっかく誘ってくれたけど、私、美術にそんなに興味ない。

きれいな美術品は素敵だと思うけど、……せいぜい鑑賞が苦痛じゃない程度で、自分で描くとか全く自信ない。
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