小夜啼鳥が愛を詠う
朝礼が終わる頃、やっと野木さんが教室に戻ってきた。

「どうした?机に鞄おきっぱなしで。体調悪いのか?」
担任の明田先生がそう聞いてから、ふと気づいたように言った。

「昨日も、同じようなことあったな。おいおい。入学早々、自由過ぎるぞ。朝礼が始まる前に登校してても、着席してないとアウトだからな。これから部活の朝練する奴も、気をつけなさい。」

「はぁい。すみませーん。」
野木さんはうつむいて謝りながらそそくさと席に着いた。

ニンマリ、と私に怪しい笑顔を見せて。



中学に入学して初めての授業は、英語だった。
私は小学校の時に英語のクラブに入っていたので、すんなりと入れた。

授業が終わると、光くんが当たり前のようにやってきた。

「さっちゃん。」

光り輝く天使の笑顔。
ほらほらほら。
野木さん、やっぱり天使は、光くんみたいなヒトにこそふさわしいと思うよ……。

「光くん。授業どうだった?……数学だっけ?先生、わかりやすく教えてくれた?」

そう尋ねたら、光くんは笑顔のまま首を傾げた。

「うん?うん。そうだね。」

……なんか、あやしい。

「いきなり、さぼったの?」
「ううん。ちゃんと教室にいたよ。ずっと教科書を読んでた。……全部覚えたから、もう、次からは、いいや。」

光くんは、さらっとすごいことを言った。

数学の教科書を一読して覚えたってこと?

……頭がいいのは知ってるけどさ、一年分を一時間って!
しかも、もう、数学の授業を受けない気?

さっきの明田先生の表現だけど、……自由過ぎるよ、光くん。



わずか10分の休憩時間はすぐに終わってしまう。

「光くん、次、移動教室でしょ?早く行かないと……場所わかる?クラスの人たちにちゃんとついてかないと、校内で迷子になっちゃうよ?」
壁時計を見上げてそう促した。

「あ。うん。大丈夫。じゃあ、行くね。またね。さっちゃん。野木さん。……椿さん?」

光くんに初めて話しかけられて、椿さんは
「ひゃっ!」
と、小さな声を挙げた。



光くんは、休み時間の度にやってきた。
お昼ももちろん一緒に食べた。
ママの手作り弁当をいちいちうれしそうに食べていた。
ほんっとに……マザコンなんだから。



そして放課後。
野木さんに連れられて美術部の見学に行った。
既に光くんにも話を通していたらしい。

「美術部とか写真部とかって、鬼門かも。モデルとか頼まれたら断るからね。」
光くんは、そんなことを言いながら、それでもついてきた。

「わかっとー。小門兄にそんなストレスかけませんて。……でも、お尻の筋肉とか、デッサンさせてほしいなあ。」

お尻?

それってヌードになれってこと?
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