小夜啼鳥が愛を詠う
「野木さん、よく僕を、勝手にスケッチしてたじゃないか。」
光くんが口を尖らせた。

野木さんは、しれっと言った。
「うん。小門兄は静止画も動画も綺麗だから。脈動する筋肉。いいわぁ。」

……なんか……やらしい。

「ふーん?野木さん、オタクって言ってたけど、腐女子?僕、キャンパスに描かれるんじゃなくて、同人誌か何かの登場人物になるの?」

光くんに指摘されて、野木さんは口をぐぐぐっと引き結んだ。
図星だったようだ。

「なるほど。それでお尻の筋肉。」
思わず口に出して呟いてしまった。

「さっちゃんも?興味あるの?」

光くんにそう尋ねられ、私は慌てて手を振った。

「ないない。全然ない。ヌードとか、無理。恥ずかしくて、絶対無理だから。」
「……何を期待して来てるんだ?中学の部活でヌードデッサンなんかあるわけないだろう。」

背後から、呆れたような声が降ってきた。

キャッ!
恥ずかしい話、聞かれちゃった!

振り返ると、そこには担任の明田先生。

「うちのクラスの、野木と……古城(こじょう)と……?」
明田先生は既に生徒の名前を覚えてるらしい。

は、恥ずかしいって!

思わず私は、光くんの背後に隠れた。

「え……。」
光くんをを見て、明田先生は絶句して、そのまま立ち尽くした。

たっぷりと流れる沈黙の時間。

光くんもまたマジマジと明田先生を見ていた。
人見知りモードじゃないみたい。

「あの?明田先生?入部希望です!……この2人は見学です。」
沈黙を破ったのは、野木さん。

「あ、ああ。そうか。……どうぞ。」
明田先生は、何とか返事をして、戸を開けた。

「失礼しまーす。」
意気揚々と野木さんが美術室に入ってく。

続いた光くんを、じーっと、食い入るように見つめる明田先生。

「……吉川?」
明田先生が声になるかならないかの、かすかな声でそうつぶやく。

「……。」
光くんが足を止めた。

振り返って、明田先生を見つめた光くん。

不細工な中年子デブと、麗しい美少年が、お互いを探るように見つめ合ってる……何か、シュールだわ。

でも、明田先生、今なんて言った?

ヨシカワ?
誰!?

不意に、光くんがフッと笑った。

……違う。
光くんじゃない。
また、なんか、降りてきたんじゃない?

いつもより婉然とほほえんで、光くんは言った。

「小門光です。お邪魔します。」
「あ。ああ。どうぞ。……小門?小門……。」

明田先生は、何度か繰り返して、それからためらいがちに続けた。

「君は……いや、ご両親は……」

光くんはうなずいてから、答えた。
「明田先生と同じく、この学校の卒業生です。父は小門頼之、母は吉川あおいです。」

すると、明田先生が食い付き気味に、ずずいっと光くんに近づいた。

「吉川……彩瀬の……甥?」
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