小夜啼鳥が愛を詠う
あやせ?

甥?

えーと、えーと、えーと……。

あ!
聞いたことあるかも!
光くんのママのお兄さんが、高校の時に胃癌で亡くなったって。

明田先生は、その彩瀬さんを知ってるのかな?

光くんは、にっこり微笑んだ。
「そうなりますね。」

ああ……その笑顔……罪だわ。

光くんは、自分がどれだけ美しくて、どれだけヒトを魅了するか、自覚が足りないと思う。

現に、明田先生は、みるみるうちに頬を染めた。

ほらほらほら。
言わんこっちゃない。

ふっふっふ……と、野木さんが低く笑った。
かわいい顔をまた変顔にして。

野木さんは、私の耳元で力強くささやいた。
……声になってないのに、力説が伝わってくるって、すごい。

「絶対!小門兄は明田さんの好みだと思った!明田さんへの捧げモノ成功!」

「ひどっ。それって、生け贄?」
私も声をなるべくひそめて文句を言った。

「てゆーよりは、貢ぎ物?」
野木さんはしれっとそうつぶやいてから、普通の声で見つめ合う2人に声をかけた。

「ね!ね!小門兄、明田先生は怖くないでしょ?先生、聞いてません?このヒト、こんなナリして、問題児。こうして会話が成立するの、珍しいんですよ。」

まるで自分の功績のように、野木さんはもったいつけてそう言った。

「……問題児……。」
明田先生は、野木さんの言葉を繰り返してつぶやき、ちょっと笑った。

「なるほど。わかる気がする。……小門、か。そうか。」

そうして、明田先生は美術室に私たちを招き入れた。
中には、部員が4人。

途端に、光くんの表情が固まった。
人見知りモードに切り替わったらしい。
光くんが、私の腕をぎゅぅと掴んだ。

……ダメそう。

「先生。」
小声で明田先生を呼んだ。

部員に挨拶し、声をかけていた明田先生が振り返った。

「……せっかくですが……失礼してよろしいですか?」

明田先生にだけ見えるように、私の腕を掴む光くんの手を、こっそり指差しながらそう尋ねた。

「……そうか。わかった。……あ、いや。美術準備室で、少し話そうか。」

ホッとしたように光くんがうなずいた。
私も明田先生も、そんな光くんに、ホッとした。



美術準備室は、明田先生の部屋のようだ。
先生は、わざわざ私たちに紅茶を入れてくれた。

「ありがとうございます。」

学校なのに、本格的なリーフティー!
ウェッジウッドのティーセット!

素敵!

うきうきして紅茶を楽しませてもらった。
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