小夜啼鳥が愛を詠う
パパが純喫茶でこだわりのコーヒーを入れてるから私ももちろんコーヒーが大好きだけど、家では紅茶を飲むのが習慣だ。
一口に紅茶と言っても種類も会社も無数にあるので、飽きることはない。
明田先生がいれてくださった紅茶は、たぶんはじめて飲む味。
何ともいえない馨しさ、深みと酸味と甘味……これ、なんだろう。
柑橘系の花の香りにも、梅の花の香りにも似てる。
濃い葡萄ジュースの香りが近いかな?
「美味しいね。」
光くんも気に入ったらしく、にこにこしている。
「うん。すごく好きかも。先生、これ、どこの何てお茶ですか?」
私がそう尋ねると、明田先生は茶葉の入っていたらしい袋を手に取った。
「それか?えーと……ロシニョール、って書いてあるな。フランスの会社かな?土産でもらったから、よーわからんけど。」
「ふーん?ワイン醸造家みたいな名前だね。……ああ、なるほど。だからこの香りなのかな。」
相変わらず何でもよく知ってる光くんはそう言って、またカップに口を付けた。
中学生男子とは思えない赤い綺麗な唇が、白磁に繊細なデザインを施した美しいティーカップに映えて……私も、明田先生も、目が離せない。
光くん、まるで女神さまだわ。
いつまでも光くんに見とれてる明田先生に、話し掛けた。
「先生は、光くんの伯父さんと同級生だったんですか?」
明田先生は、慌ててうなずいた。
「ああ。同じクラスになったことはないが、学年は一緒やった。お父さんの小門のことも、よく覚えてる。サッカー部のキャプテンで、頭も顔も良くて、天は二物も三物も与えるもんだと、ほれぼれ見とったわ。」
光くんがちょっとほほえんだ。
「父を誉めていただいて、ありがとうございます。……母のことも、ご存知ですか?」
……光くんてば、こんな時まで……マザコン。
明田先生は苦笑した。
「もちろん。吉川とは全然似てないけど、美人さんだったな。入学してきた時はかなり話題になったのに、吉川が亡くなって、妹さんも学校に来なくなって……吉川の死がよほどショックだったんだろうと思ったら……妊娠したって。しかも相手はあの小門だ。教師も生徒も大騒ぎしてたよ。」
そうして、気づいたように、目を細めて光くんを見た。
「そうか。君はあの時の子なのか。……もう16年……ってことか。吉川に生き写しで、びっくりしたよ。……どおりで俺も歳をとるわけだ。」
そうは言ったけど、明田先生は歳よりも若く見えた。
ふくふく太って、お肌が張ってるからかな。
一口に紅茶と言っても種類も会社も無数にあるので、飽きることはない。
明田先生がいれてくださった紅茶は、たぶんはじめて飲む味。
何ともいえない馨しさ、深みと酸味と甘味……これ、なんだろう。
柑橘系の花の香りにも、梅の花の香りにも似てる。
濃い葡萄ジュースの香りが近いかな?
「美味しいね。」
光くんも気に入ったらしく、にこにこしている。
「うん。すごく好きかも。先生、これ、どこの何てお茶ですか?」
私がそう尋ねると、明田先生は茶葉の入っていたらしい袋を手に取った。
「それか?えーと……ロシニョール、って書いてあるな。フランスの会社かな?土産でもらったから、よーわからんけど。」
「ふーん?ワイン醸造家みたいな名前だね。……ああ、なるほど。だからこの香りなのかな。」
相変わらず何でもよく知ってる光くんはそう言って、またカップに口を付けた。
中学生男子とは思えない赤い綺麗な唇が、白磁に繊細なデザインを施した美しいティーカップに映えて……私も、明田先生も、目が離せない。
光くん、まるで女神さまだわ。
いつまでも光くんに見とれてる明田先生に、話し掛けた。
「先生は、光くんの伯父さんと同級生だったんですか?」
明田先生は、慌ててうなずいた。
「ああ。同じクラスになったことはないが、学年は一緒やった。お父さんの小門のことも、よく覚えてる。サッカー部のキャプテンで、頭も顔も良くて、天は二物も三物も与えるもんだと、ほれぼれ見とったわ。」
光くんがちょっとほほえんだ。
「父を誉めていただいて、ありがとうございます。……母のことも、ご存知ですか?」
……光くんてば、こんな時まで……マザコン。
明田先生は苦笑した。
「もちろん。吉川とは全然似てないけど、美人さんだったな。入学してきた時はかなり話題になったのに、吉川が亡くなって、妹さんも学校に来なくなって……吉川の死がよほどショックだったんだろうと思ったら……妊娠したって。しかも相手はあの小門だ。教師も生徒も大騒ぎしてたよ。」
そうして、気づいたように、目を細めて光くんを見た。
「そうか。君はあの時の子なのか。……もう16年……ってことか。吉川に生き写しで、びっくりしたよ。……どおりで俺も歳をとるわけだ。」
そうは言ったけど、明田先生は歳よりも若く見えた。
ふくふく太って、お肌が張ってるからかな。