小夜啼鳥が愛を詠う
ちなみに、私も言葉は変だとよく指摘される。

うちの場合はパパは神戸生まれの神戸育ち、ママは芦屋で生まれたけど中学生から神戸……だから、普通に神戸弁は身近なんだけど、職業柄、丁寧語が強いらしい。

パパは、古い純喫茶のマスターで、言葉遣いには気をつけてる。
ママは、若い頃に横浜と東京と京都で養護教諭をしてたから、やっぱり標準語に近いと思う。

去年亡くなったおばあちゃんは普通に神戸弁だったんだけどなぁ。



「桜子、大丈夫け?」

肩で息をしてる私に、薫くんが足を止めて振り返る。

「……うん。けっこう登ったけど、まだまだ先?」

確かにきついけど、5才の薫くんががんばってるのに、弱音を吐きたくなかった。

「いや。もうすぐそこや。」

薫くんが指差した先に、なるほど、鬼瓦が半分だけ見えていた。

「あとちょっとね。」

ホッとしたら、薫くんが笑顔でうなずいた。
そして、私の手を強く握って引っ張り上げようとしてくれた。

小さな幼稚園児にエスコートされて、私はようやく石段を登り切った。

そこには、小さな御堂があった。

「ここ?」

そう聞いたら、薫くんはニッと笑った。

「いや。でも、振り返ってみ。見晴らしええぞ。」

薫くんの言葉に操られるように振り返る。

わあ……。

山に入ったつもりはなかった。
単に、山手の住宅街をどんどん登って行って、石段を上がっただけのつもりだったけど、そこはほとんど山と言っても過言じゃない位置にあった。

「あっちにでっかい墓地があるわ。」
薫くんはそう言って、木々の向こうを指差した。

お墓と聞いて、私はビクッとしてしまった。

つないだ手にも力をこめてしまい、薫くんが慌ててつけ加えた。
「いや、大丈夫や。俺らは、こっち。行こ。」

薫くんはそう言って、御堂の裏手へと進む。

……ん?
フェンス?

「薫くん、ここって……入ったらあかんのと違う?」

ドキドキする。

「うん。せやろ。俺もそう思ててん。でも藤やんが、こっから入れるって教えてくれてん。」

こっから、って……。

御堂の奥はかなりの範囲をぐるりとフェンスが巡っているようだ。

が、確かに一部だけ、フェンスにほころびがある。
握りこぶしひとつ分ほどの小さな穴だ。
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