小夜啼鳥が愛を詠う
てっきり、和室か居間で、原さんか芦沢さんがシャッターを押してくれるのかと思ってた。

でも、連れて行かれたのは、ライトアップされた桜園。

ちゃんとプロのカメラマンさんがセッティングして待ってくださっていた。

……たぶん30分もたってないのに、すごい。


おじいさまとおばあさまが前列真ん中の椅子に座る。

両横の椅子に由未さんとまいらちゃん。

後方真ん中……つまりおじいさまとおばあさまのすぐ後ろに薫くんと私が立った。

私の横に希和子さん、そして、義人さん。

薫くんの隣に、天花寺さん。

「それでは、撮ります。はい、こちらのレンズを見て下さい。」

カメラマンさんがそう声をかける。

「はい、鳩が出ます……よ。」

由未さんがそうつぶやいた。

「……桜子のお母さんとおんなじこと言うてる……。」

薫くんが驚いてそう指摘した。

「え……。あ、そっか。夏子さんも、歌劇、好きやったもんね。」

由未さんが振り返って、私にそう確認した。

「好きどころか……ライフワークだそうです。私の親友のファンクラブの代表してます。」

そう言ったら、おじいさまも振り返った。

「桜子の親友なのか?……じゃあ、スポンサーになってあげないと。義人。どうせ暇だろう。やってやれ。」

……ひどい言いぐさ……。

「あのぉ、みなさん……こちらをご覧ください……。」

前列が交互に振り返るもんだから、カメラマンさんが困ってる。

「すみません。……社長、その話はまた……」

義人さんがそうとりなそうとしたら、おじいさまはムキになって振り返って立ち上がった。

「わしの言うことを、そんなに、お前は聞きたくないか?」

ひどっ!

おじいさまってば、それって、ただの言いがかりだよー。

「……失礼しました。仰るとおりにいたします。」

義人さんの顔から色が消え、声から抑揚がなくなった。

私の隣で希和子さんがつらそうにため息をつき、涙を滲ませた。

「おじいちゃん!もう!パパいじめたらママが泣く!……ほら~!もう!ママ!いい歳して、めそめそやめてーな!恥ずかしい!」

まいらちゃんが、おじいさまと希和子さんにくってかかった。

希和子さんはますます涙をこぼし、義人さんが慌ててハンカチで拭いてあげる。

カメラマンさんはため息をついて、天を仰いだ。

「休憩しましょう。せっかくご家族のお写真なのに、泣き顔では……。」

「……ごめんなさい……。」

希和子さんはしょんぼりして、しゃがみこんだ。
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