小夜啼鳥が愛を詠う
あーちゃんは、同級生から一年遅れて高校を卒業した。

そこから四年間、僕らは京都で核家族の生活を送った。


おばあちゃんが一人暮らしになってしまったので、休みの度に神戸に帰った。

その都度、さっちゃんに再会した。

さっちゃんは、ますます美少女へと進化していた。

会わない期間は、お互いへの想いを育てる……。

僕らは、さながら小さな恋人同士のようだった。




京都では、一応、保育園に通った。

けど、結局、友達らしい友達はできなかった。

むしろ、通い始めた空手の道場のほうが、まだ人見知りせずに居られた。

囲碁にしろ、空手にしろ、目的意識のハッキリした人達はいい。

余計な絡みはいらない。

保育園には行きたがらず、途中で脱走することもしばしばだったが、空手のお稽古には休むことも遅刻することもなかった。



珍しいヒトとも出会った。

お父さんのゼミのお友達という男性が家にやってきた。

このお兄さんとは、浅からぬ縁があった。

あーちゃんが、出産後に復帰した高校で仲良くなったお友達の「由未ちゃん」は、このお兄さんの妹さんだった。

失礼ながら、由未ちゃんに対してはいつもの人見知りモードな僕だけど、お兄さんに対しては、最初から打ち解けることができた。

僕は、お兄さんの中に、さっちゃんを見出した。

動物的な直感……だろうか。

でも、それだけじゃないと思う。

おそらく、さっちゃんの産まれる前から、このお兄さんと関係があることを知っていたお父さんの様子から推察していたような気がする。


よくわからないままに、僕はお兄さんにさっちゃんのプチ情報を与えては、その反応から関係を推し量った。

そして、囲碁の対局をしてみて、確信した。

お兄さんからは、さっちゃんと同じ魂を感じられた。

感性……考え方……頭の構造……価値観……たたずまい……瞳に映る意志……そして、容姿。

他人のわけがない。

たぶん、あーちゃんも勘づいたろう。



誰も口外はしないけれど……僕らは暗黙の了解として共通認識していた。


さっちゃん自身にも、秘密の話。
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