小夜啼鳥が愛を詠う
2年生からは光くんと同じクラスだった。
てっきり、私がそばにいれば、それだけで光くんのエスケープ癖はおさまると思ってた。

……実際、1年生の時とは比較にならないぐらい、光くんはちゃんと教室にいるようになった。
でも、男女が別れる体育の授業や、班ごとに別れて座る移動教室の授業からは、いつの間にか姿を消していた。

今年の担任教諭は、明田先生のように優しいタイプではなかった。
担任は、光くんを矯正させようと躍起になって、結果、光くんに拒絶された。

光くんは、朝礼と終礼に出なくなってしまった。


「小門兄なら、美術準備室で寝てたけど。」
クラスは離れたけど、美術部の野木さんは、光くんにも私にも積極的に関わってくれた。

「また?……すっかり隠れ家ね。ありがと。……ん?なに?それ。また、描いたの?見せて。」

野木さんは、右手に愛用のステッドラーの鉛筆を握り、左手にスケッチブックを隠し持っていた。
たぶん、寝てた光くんをスケッチしたのだろう。

「……いいけど、ちょっと待って。野木の次の作品にしたい。できてから見せる。」
珍しく野木さんの鼻息が荒かった。

「作品って……」
どっちの?
洋画?
それとも、同人誌?


「あ。いた!野木!」
美術室の前で、明田先生に声をかけられた。

「先生!こんにちはー。」
相変わらず、明田先生ファンの野木さんは、声のトーンを上げて笑顔で挨拶した。

「あ、ああ。……古城も。小門を迎えに来たのか?ごくろうさん。」
明田先生にそう聞かれて、私はうなずいた。

けど、釈然としないというか……少し淋しさを覚えた。
光くんには、私よりも、この明田先生の美術準備室のほうが居心地いいのかな、って。

何だか、私、ただの保護者代理みたい。
嫌がる光くんを無理やり連れ戻しに来てるよう。
……損な役割。

「そうだ、野木!さっき連絡があってな、お前の絵、当選したぞ。新聞社の絵画コンクール。おめでとう。」

明田先生は、そう言って野木さんの手を取って握手した。
野木さんの頬が、へら~っと緩んだ。

喜んでる喜んでる。

「すごい!野木さん、おめでとう!」
私もパチパチ拍手した。

野木さんは、得意げに胸を張った。
「ありがとう。でも、中学生の部ですよね?野木はそんなんじゃ満足しません。明田先生のように、高校生になったら、一般部門で大賞を取ります!」

明田先生は、困ったような顔になった。
「いや、俺のはまぐれだから。野木は野木のペースで、がんばれ。……表彰式は再来月だ。出席するだろう?」

野木さんは明るく返事した。
「はいっ!コミケと重ならない限り、行きます!」

……ぶれない野木さんに、さすがの明田先生の笑顔も固まった。
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