小夜啼鳥が愛を詠う
2ヶ月後。
幽霊部員とおまけの椿さんを含めて、明田先生は美術部員を新聞社へと引率してくれた。
ロビーには、他の受賞作と並べて、野木さんの絵が飾られていた。

野木さんの出展した絵には、光くんが描かれていた。
海か、空か、宇宙か……紺碧のキャンパスに、丸まった天使だ。

「テーマは去年の小門兄。殻に閉じこもって震えてるところ。タイトルは、バロット。」

身も蓋もない説明に、椿さんが突っ込んだ。

「なに?それ!ひどっ!……てか、バロットって?なに?」

「……料理だよ。孵化直前のアヒルのゆで卵。」
光くんがそう教えてくれると、周囲のヒトたちまでどん引きしてるのがわかった。

うーん……さすがに、それは……私も、引きつるわ。

「そのシュールなタイトルが、受賞理由の一つみたいだな。」
明田先生はそう言ってから、満足そうにうなずいて、野木さんを誉めた。
「野木は、絵の技術だけじゃなく、発想がいい。趣味の創作活動がイイ方向に作用してるんだろう。あとは……心だな。」

心。
抽象的で難しいな。

でも野木さんは、納得してるらしく、何度かうなずいてから言った。

「わかります。野木は耳年増の頭でっかちで、決定的に経験不足なんです。芸の肥やし、ではありませんが、恋愛して肉欲に溺れて、失恋しなければ、想像力だけでは頭打ちです。作品のためにも、男つくらなきゃ。明田先生、野木とつきあってくれませんよね?」

「にくよく……。お前……阿呆だろ。」

明田先生、さすがに呆れたみたい。
冗談だと思ってるんだろうな。

同情して見てると、椿さんが野木さんを叱った。
「てか、野木!こら!作品って、絵じゃなくて同人誌だろ!もう!どさくさ紛れに告白して、先生を困らせんな!」

「……こくはく……。」
明田先生は、それ以上何も言えなくなってしまった。

これまでも、多少引っかかりながらもスルーしてたんだろうな。
でも野木さん、ずっと明田先生の追っかけしてるし……けっこう本気だったりして。

明田先生は頬を染めて、じりじりと後ずさりすると他の部員の陰に隠れてしまった。

「……逃げられたか。」
どこまで本気なのか、野木さんは舌打ちした。
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