小夜啼鳥が愛を詠う
2月の終わりに卒業式を迎えても、公立高校の受験は3月半ば。
ほとんどの子が、私立高校を滑り止めとしてキープしてるとは言え、遊べるムードではない。

椿さんと野木さんは、毎日我が家に通ってきて受験勉強に追われた。
私で説明しきれない問題は、光くんに来てもらった。

……てか、光くんだけはろくに勉強もせず、相変わらずのマイペース。
碁会所や、空手教室に顔を出す以外は、どこで何をしてるんだか、さっぱりわからない。

呼べば来てくれるけど……所詮、その程度。

「思うんだけどさ、さっちゃん、高校に入学したら、他に彼氏つくったら?」
椿さんが、シャーペンの芯を詰めながらそう言った。

「他にって……。今も、彼氏じゃないし……。」

もごもごとそう言ったら、珍しく野木さんも同調した。

「野木も椿氏に全面的に賛成。小門兄はさくら女(じょ)の気持ちにあぐらかきすぎだと思う。さくら女を他の男に奪われなきゃ、わかんないのかも。」

……て、言われても……。

「他に好きな男のヒトなんて、できる気がしない……。」
私は、気弱にそうこぼした。

「あーーーーー。」
男役を目指す椿さんの本気の低い声は、なかなかに迫力があった。

ちょっと、怖い。

「さくら女は、いささか男子が苦手に見受けられる。あ、小門兄は特別。あれは、性別を超越した存在だからな。」

野木さんの言葉に私は、苦笑した。

「その通り。もう……ね。昔のように須磨の別荘で泳げない。光くんのあの美貌の下が、白い細マッチョな身体とか、無理。見たくないし、想像もできない。」

「……さっちゃん、ちょっとそれはやばいかも。幻想抱きすぎ。」
椿さんが呆れた。

うん。
言い返せない。
自覚、ある。

でも……光くんは、いつまでも綺麗で……ゴツゴツしないんだもん。
他のギラギラした男子とは、違うもん。

「……でも、小門兄、色気出てきたよ。」
ボソッと野木さんが言った。

「色気?」
女じゃないのに、色気?

「そう?いつも、ぽやーんと斜め上の空を見てるイメージ。」

椿さんの意見に、野木さんは首を横に振った。

「甘いな。野木はだてに小学生の時から小門兄ウオッチングしてないから!もう、小門兄は膝を抱えて丸まってた天使じゃないから。卵からとっくに脱皮して、手足伸ばした妖精になって、小悪魔に化けつつあるから!」

「……それって、まんま、野木の作品やん。絵も、同人誌も。」
< 60 / 613 >

この作品をシェア

pagetop