【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
手渡されたタオルをギュッと握って、私は立ち尽くす。

―『何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!』―

雪ちゃんの言葉が頭の中に響く。それを言われて、ハッキリ気が付いた。

(もう、遅い……)

私の中ではもう、昨夜の事は『取り返しの付かない事』になってしまっていた。

「どうしよう……」

足の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。

「……雪ちゃんの事、好きになっちゃったよ……」

そう口にした途端、涙が滝の様に零れ落ちる。

好きになりかけた事は、何度もあった。でもその度に、絶対にその一線を越えない様気を付けていたのに、昨日の事でアッサリと落ちてしまった。

好きになっても、どうする事も出来ないのに。

「簡単に落ちるもんだな……」

涙でぐちゃぐちゃな顔を洗い流そうと立ち上がる。気持ちなんて一生伝えられないし、伝えたとしても迷惑でしかない私の恋心。

成就しない、私の恋……。

蛇口から流れる水をぼーっと眺めながら、私のこの不毛な想いも、昨夜の記憶も、全部流れてしまえば良いのに。そう思った。
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