【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
江奈と洗面所で別れ、アタシは自分の部屋に戻る。窓辺に置いてあるソファーに、バフッと倒れ込んだ。

さっきのホッとした江奈の顔を思い出して、ズキッと心が痛む。

「普通に出来たかしら……やっぱり、覚えていないフリをして正解ね……」

さっきの話。あれは全部ウソだ。

覚えていないなんて嘘っぱちで、朝目覚めた時も記憶は鮮明に残っていた。

でも、さっき江奈の気まずそうな顔を見た瞬間、咄嗟に何も覚えていないフリをしてしまった。そうした方が、なんとなくいい気がして。だって、オネエにあんな事をされたなんて、嫌でしょうから。

江奈は然程酔っていなかった。だから、アタシのした事を覚えていないなんてあり得ない。 でも、アタシが覚えていないフリをしたら、何もなかったと答えた。それは、江奈も無かった事にしたいんだと、悟った。

笑って怒ってくれたら、「つい出来心で♡」とか「怒っちゃイヤ~ン♡」とか言っておちゃらけられたけど、それも出来なかった。

「汚点、よね。こんなの……」

――ズキン……。

さっきから、心臓がズキズキ痛い。

「何かしら……」

はぁ……と溜め息が漏れる。無意識に、指で唇をなぞった。

昨夜の光景、江奈の唇の感触、白い足……頭の中に蘇る。それと同時に、熱が体の中心に集まり始めた。

「……っ!?」

ガバッ!と立ち上がる。

「……え……?」

あれ……?この感覚は……。

「嘘でしょ……?」

自分でも信じられなかった。
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