【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
私の叫びに、男は被っていたキャップをゆっくり外し、頭をバサバサと振って、ユラァ…っとこちらを振り向いた。

「………サイテーだなんて酷いなぁ、江奈さんは。なんで?そんなの決まっているじゃないか。江奈さんの目を覚ます為だよ」

振り向いたこの男は、やっぱり笹木だった。

髪はボサボサに肩まで伸びて無精髭(ぶしょうひげ)も生えているが、間違いなく笹木だった。ニタァ……と不気味に笑う笹木を見て、どこからともなく「ひっ!」と言う声が聞こえる。

「……私のアパートに写真を送り付けて来たのも、あなたね……?」

私は、握り拳にギュッと力を入れる。

「ああ、そうだよ。よく撮れてたでしょ?」

満足そうに頷く笹木を見て、私は頭に血が登り、発狂の様に叫んだ。

「よく撮れてたでしょ…?……ふざけんじゃないわよっ!あんたの身勝手な行動で、こっちがどれだけ迷惑してると思ってるの!?」

今まで溜まっていた鬱憤(うっぷん)を、全部笹木にぶつける。すると笹木は、怒りで頭がおかしくなりそうな私とは対照的に、落ち着いた表情で小首を傾げてこう言った。

「迷惑?どうして……?」

私がなぜこんなに怒っているのか訳が分からない、と言う様な顔で私を見ている。

……駄目だ。多分、今の笹木には何を言っても通用しない。

ギリッ……と、唇を噛み締める。
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