【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
突然、フフッと雪ちゃんが笑い出した。

「どうしたんですか?」

「いえね、次の日の朝は大変だったな、って。思い出したらおかしくなっちゃって」

「笑い事じゃありませんよ……」

雪ちゃんの言う通り、あの時は大変だった。出社するや否や女子社員からの質問攻め。

「いつから付き合ってるんだ」とか、「どっちから告白したの」とか、「もうアッチの方は済んでるの?」とか、下世話な事まで。

廊下を歩けばヒソヒソ話が聞こえるし、

『難攻不落の津田部長を落とした魔性の女』
『二人の男を手玉に取る魔性の女』

なんてレッテル貼られて、胸くそ悪いったらありゃしない。

もうもう、とにかくある事ない事ウワサが一人歩きして、全然収拾が付いていない状況だった。

「アタシ達、魔性の女に手玉に取られちゃったのね」

当然そのウワサは雪ちゃんの耳にも届いている様で、からかい混じりにイジられる。

「違いますってば!ホント、止めて下さいよ……」

私は本当にイヤで、涙目になりながら抗議する。

「ごめん、ごめん。でも、会社でそのウワサを聞いた時、笑い堪えるの必死だったわよ」

今の雪ちゃんも、必死に笑いを堪えている。

「他人事だと思って……」

ぶぅ、と頬を膨らませると、「ホラホラ、可愛い顔が台無しよ」と頬をツンッと突つかれた。

突つかれた頬をさすっていると、料理が運ばれて来た。

「お待たせいたしました!金目鯛のお客さまは……」

「ああ、両方真ん中に置いて頂戴。あと、取り皿頂けるかしら?」

「かしこまりました」

雪ちゃんがテキパキと指示を出し、料理が並べられる。
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