初恋を君に

達哉の家に到着しても混乱したままだった。
何故なら最初に向かったのがトイレだったからだ。

「ここの扉の中に保管しとけばいいよ。サニタリーボックスはそこにあるから好きに使って。あー小さいゴミ袋も買えば良かったなぁ…今度買っておくよ。」

「あっ…あのさ?」

「何?」

「上条って一人暮らしだよね…?なんで…あるの?」

もしかして…誰かと同棲してたとか?
そんな考えしか浮かばず、余計に混乱してしまう。
問いかけたクセに答えを聞くのが怖くて、
目線を逸らした。

しかし、その答えは意外なものだった。

「俺、姉貴が2人いるって話したことないっけ?」

「…お姉さん?」

そういえばドラッグストアでそんなことを言っていたような…

「そう。姉貴たちが旦那と喧嘩した!とか飲んでたら終電逃した!とか言ってしょっちゅう来るんだ。だから姉貴たちが自分の使い勝手の良いように色々置いていった結果、男の一人暮らしなのにこんな感じ。」

そう言うと笑って肩を竦めた。

「そうなんだ…」

「それより!上条じゃないだろ!」

「え?あぁごめん…」

混乱と無意識で呼び慣れた方で呼んでいたらしい。

「全く…ほらリビング行くぞ。今ブランケット出すからソファに座ってな。」

「あっ…うん。でもご飯はどこ行くの?」

「飯はここ。リストランテ・カミジョウ!」

…リストランテ?
イタリア語?

あまりの混乱と驚きにそんな事しか考えられずにいると、達哉は私の手を引いてソファに座るように促した。

「待って。ここなら私も手伝うよ!」

「いいから!座ってろ。なんならベッドで休んでろよ。」

「いや…でも…病気じゃないし…」

「だからだろ?病気だったら薬で治るけど、違うだろ?大丈夫だって言ってるんだから、少しは甘えろよ…っていうか頼ってよ。」

甘えたり、頼ったり…
そんな事をすることなど随分忘れていたことに気付かされて、ハッとした。

そうやって私たちは、いずれ共に生活していくのだ。

その気づきは、とても甘美で幸せな感覚だった。

「…わかった。ありがと。」

「どういたしまして。ほら、座って。いま暖かい飲み物持ってくるから。」

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