初恋を君に
今度は大人しくソファに座ると、
達哉は満足そうに頷いてキッチンに向かった。
「あの…テレビつけていい?」
「リモコンその辺にあるだろ?好きなの観ててそんなに時間かからないから。」
「そうなの?」
「そう!昨日仕込んどいたから!1時間もかからないよ。」
そういえば、電話口でガサガサと荷物の音がした原因はこれだったのか…
「わかった。楽しみにしておく。」
「その前にこれ飲んで、身体温めな。」
湯気をあげるマグカップの中には、
綺麗なルビー色の液体が入っていた。
「ホットワイン?」
「ヴァンショー。ホットワインだけどこれはスパイスがたくさん入ってて温まるよ。ノンアルコールで作っといて良かった。」
「へぇー。初めて飲むかも…」
手で包み込むようにカップを持つと顔を近づけた。香りだけで身体が温まりそうだった。
一口飲むととても美味しい。
もしかしたら、これは家庭の味なのかもしれない、とふと思った。
上条家はこのヴァンショーを飲みながら
家族で団欒をするのだろうか?
お姉さん達が、達哉の家によく来るぐらいだから仲いいんだろうな…
少しずつヴァンショーを飲んでいると
身体も心も温まるのを感じた。
「…文?もうすぐ飯できるぞ。」
その声にハッとして目が覚めた。
どうやら寝ていたらしい。
持っていたはずのマグカップはローテーブルに置いてあり、身体にはブランケットがかかっていた。
「気分はどう?」
何故か身体が触れるほど隣にいる達哉に
そう問いかけられた。
温まって少し寝たのが良かったのと薬が効いてきたことで随分楽になっていた。
「うん。大丈夫。お腹すいた!」
そう言うと嬉しそうに達哉はにっこりと笑うので少しドキドキした。
「じゃあ運ぶの手伝って。飯にしよう。」
「はーい。」
ひとつ伸びをしてソファから立ち上がると、
嗅覚も目覚めたようで美味しそうな香りが
部屋に漂っていた。
「わぁ…すごい。…パスタ?」
「そう。カンネッローニ。お袋直伝のレシピ。クリスマスディナーだし、ローストチキンも用意したいところだけど…一羽まるまるを2人じゃ多いからグリル野菜にチキンも入れて手抜きした。これ取り皿。」
渡された取り皿とフォークとスプーンをローテーブルに置く。
カンネッローニとグリル野菜、パンが並べばテーブルはもういっぱいだ。