初恋を君に
「…どうしたの?」

「俺、多分嫉妬してた。」

「…えっ?」

達哉は握った手を少しだけ強くして目線をそらした。

「さっき風呂の話してた時にさ…ちょっと何かを考えたじゃん?それって今までの事、思い出してたんだろ?文は俺以外の誰かと…って考えたら…なんかイラっとして…」

「いや…それはさ、お互い様じゃん。この年なんだからさ…」

「…わかってるよ。何年の付き合いだと思ってるんだよ。でもイラついたの!嫉妬とかマジカッコ悪い。」

不貞腐れたような、ちょっと凹んでいるような達哉の姿を見て思わず笑ってしまった。

「笑うところじゃないし…」

「いや…ごめん。だけどさ、意外で。気にするんだね。」

「…自分でも意外だよ。いろんな奴の話を聞いてバカだなぁって思ってたのに。お互い好き同士なのになんで嫉妬するんだよ。
とかさ…でも相手がいるってこう…なんだろう。ままならない事もあるんだな。」

「そうだね。所詮他人だからね。私たち。」

それを聞いて達哉は立ち止まって私を見つめた。
なんだか今度は寂しそうな顔をしている。

「文って…ドライ過ぎる。」

「もう!!そうゆう事じゃなくて!他人同士だからちゃんと思った事を言い合おうよ。って事!良い事も悪い事も考えてるだけじゃ
やっぱり伝わらないよね。お互いその事忘れないでいようよ。」

繋いだ手は温かく頼もしいのに、その顔はなんだか情けない顔をしている。
手を離して達哉の胸に飛び込んで、ぎゅっと抱きついた。
恐らく今度は驚いた顔をしているであろう彼の胸に顔を埋めたまま、「ありがとう」と呟いた。
しかし小さな呟き届かず、急に抱きつかれた達哉慌てている。

「急に何?どうした??」

「私の体調の事、気遣ってくれてありがとね。嬉しかった。色々不安だったけど、一緒に暮らしていけるって
安心できた。至らない私だけどよろしくね。」

気恥ずかしくて、顔を埋めたままでいると達哉に優しく抱きしめられた。
人は疎らとはいえ、道の往来で恥ずかしいかもと頭をかすめる。
それと同時に達哉が小さく鼻を啜る音が聞こえた。

「ごめん!寒いよね!帰ろ…う?…え?どうしたの?」

「…見るなよぉ」

達哉はサッと身体を離し私の手を取り直して歩き出した。

「だって…なんで泣いてるの…?」

「…別に、ただ幸せだなぁって…うまく言えないけど。」

「だから〜言わなきゃわかんないって言ったじゃん。」

「…今は、勘弁して。」

達哉はそう言うと眉間にシワを寄せ少しだけ震えている唇を拳でおさえると黙ってしまった。
私もなんだか温かいもので満たされていた。

あぁ…もしかしたらこれが『愛しい』って事なのかもしれないなぁ。
そう思ったら自然と笑みが零れた。
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