初恋を君に
その後のお話…
「かんぱーい!」
さやかとくみちゃんとグラスを合わせる。
ビールを一気に半分ほど飲み干して、
テーブルに置くと2人が興味津々な顔でこちらを見ていた。
「…何?」
「文さん、その指輪〜」
「あっ…えーと。」
「上条がやたらと舞い上がってたのは、そのせいか…」
さすが、さやかは鋭い。
別に報告するつもりだったし、
いいんだけど…やっぱり照れ臭い。
「ペアリングですよね?」
くみちゃんがキラキラした目でこちらを見ている。
「うん…頂きました。」
「あいつ…思ったとおり独占欲強いわね。文?これから大変よ。きっと…」
さやかが呆れたようにため息をついた。
「いやいや、そんな…お互い大人だし…」
「文さん、それは甘いですよ。」
「えっ?」
「だってペアリングですよ?しかも今までしてなかった2人が突然し始めたら、そりゃ周りもおかしいなぁと思いますよ?鋭い人なら気付くでしょうね…」
「はぁ…」
そう言われると…
「流石、くみちゃん。しかも文?もう誰かに言われたんじゃない?佐山くんとか…」
…怖い!!
さやかってなんでそんなに色々知ってるんだろう?
「うーん…まぁ、『残念です。』みたいな事は言われたけど…社交辞令みたいなもんでしょ?」
さやかとくみちゃんは顔を見合わせて、
わざとらしくため息をついた。
「上条さんに今、同情しちゃいました。」
「文相手じゃ独占欲出しとかないと心配よね。上条の苦労が目に浮かぶようね…」
「はぁ…」
佐山くんに「残念です」って言われたのは、本当だ。
ただし、その後に「本気で狙ってたんですよ。」と続いてはいたけれど…
「それで?いつ結婚するの?」
「えっ!?」
「結婚前提なんでしょ?」
「いや…確かにそうだけど…まだはっきりとは決まってなくて…」
「文さん、おめでとうございます!!」
「やめて〜!恥ずかしい。私の話はもういいよ〜。」
思わず両手を頬を覆う。
見事に浮かれて周りにお祝いを言われて…
こんなにふわふわしていていいのかなぁ。
「そうだ!私、お二人にお話があるんです!」
くみちゃんが改まった声でそう言った。
「え?何なに?改まって…」
「私、3月から大阪に行くことにしました!」
「…え??」
流石のさやかが固まった。
私はなんとなくそんな話があるらしいと聞いていたので、そこまでではなかったが…
それでも時期が思いの外早かったので、そちらに少し驚いた。
「ずっと打診はされていたのですが…迷っていて…でも新しい土地もいいかなって!何より…本拠地に近いですから!!」
「…寂しくなるわね。」
さやかはしんみりと言った。
「時期が微妙じゃない?」
「引継ぎとかがあるので少し早めに行かせてもらう事になりました。違う部署ですし、早く慣れたいし…」
くみちゃんの表情は明るくもう迷いはないようだ。
「まぁ…くみちゃんが決めた事なら、ねぇ?さやか?」
「…まぁね」
さやかが何か言いたげだった。
おそらく私も同じことを考えている。
くみちゃんの顔を見ると言い出せないのは、
お互い様のようだ。