初恋を君に
「おお〜足早いなぁ〜。これじゃあ追いつかないね。」
小走りで駅へ向かったくみちゃんを見ながら、
染谷課長は楽しそうに呟いた。
私も上条もどんな顔をすればいいのか、戸惑ってしまう。
課長はくみちゃんの大阪行きを知ってるのだろうか?役職者だし流石に小耳に挟んでいるのだろうけど…
「菊池はいつ結婚式あげたいの?」
「…えぇっ?突然なんですか!?」
「いやぁ、上条がさぁ〜」
隣りの上条の顔を見ると真っ赤だった。
「いや、課長マジで勘弁してください。」
「いいじゃーん。こいつさ、早く結婚式したいみたいでさぁ〜ドレスも着物も似合うからどっちがいいかなぁとか、もう今日は惚気まくりでさぁ〜」
「うわぁ〜もういいでしょ!!」
こんなに慌てる上条が珍しくて、思わず笑ってしまう。
「課長こそ、どうなんですか?素敵なパートナーと出会えました?」
「どうだろうね〜?逃げられてばっかりだからなぁ…」
「あら?」
「課長、そんな話さっきしてなかったじゃないですか!俺ばっか話させて…」
「私達の知ってる方ですか?」
染谷課長はにっこり笑うだけでなにも言わなかった。
「…黙秘なんてずるいっすよ。」
「まぁ…話せる時が来たら話すから〜」
「そんなの、絶対来ないじゃないですか。相変わらず秘密主義なんだから…」
染谷課長と達哉のやりとりが珍しくて、なんだか話に入れずにいた。意外にも仲が良いのに驚く。
「俺は、地下鉄だからここで〜。お疲れ様。気をつけて帰れよ。」
「はい。お疲れ様です。」
「お疲れ様です。ご馳走様でした。」
染谷課長は軽く手を挙げると、地下鉄の階段を降りていった。相変わらず、掴めない人ではあるけど恋をしているのだろうか?なんだか想像はできない。だけど当事者ではないと、恋をしているって、こんなにキラキラして見えるのだなぁと思った。
「あのさ…正月に文の家、いっちゃダメかな?」
「えっ?でも私、実家に帰るけど…」
「だから、その実家。」
横に並んだ達哉を思わず見ると、
照れくさそうな顔をして少し俯いていた。
「あの、それって挨拶に来るってこと?」
「…ダメ?」
私達って凄く急展開だ。
付き合い始めたのは、ついこないだで
すぐにプロポーズしてもらった。
この後は、両家への挨拶、同棲、入籍、結婚式…その他諸々。
それはタイミングが合ってトントン拍子に進んでいいことなのかもしれない。
「文?…俺、焦りすぎかな」
隣りの達哉は、今度は不安そうな顔でこちらを見ていた。
「あっごめん。平気、挨拶に来てもらって大丈夫。私も達哉の実家にお伺いしたい。」
「…よかった!」
「たださぁ、なんか急展開だなぁと思って…なんか恋人同士の時間があんまりないのも寂しいなぁってちょっと思っちゃった…」