初恋を君に
菊地 文(きくちふみ)28歳。
世で言うアラサーというやつだ。
そこそこ大手と言われる企業に就職して
人並みに彼氏もいた…
そう、彼氏がいた一昨日までは。
付き合って2年目の彼とは歳も歳だし、そろそろ結婚の話も出る頃かなぁ~。
なんてぼんやり考えていたが、
出てきたのは、別れ話だった。
28にもなって、すがるわけにもいかず
二つ返事で別れを承諾してしまった。
優しかった彼は、
「文のせいじゃない、俺が悪いんだ…」
と何度も言い続けた。
悲しかったし別れたくなかったけれど、もう別れの道しかないのなら何を言っても仕方がないじゃない…
そんな事を考えていたら、
目の前のローテーブルに入れたてのコーヒーが置かれた。
「文はミルクだけだっけ??」
「…そう。ありがとう。」
そうだここは自分の家じゃなかった。
「でも本当にごめん。迷惑かけて…」
「いやぁー大変だったわぁ~」
この家の主、上条達哉が少し偉そうな感じでだけど冗談だとわかる声で言った。
流石に昨晩の事と言い、
先ほどの朝の事と言い申し訳なさ過ぎて
思わず額に両手を当ててうなだれた。
昨晩の事とは、
彼氏に振られた次の日が奇しくも同期会であった。
会社に同期は4人。
秘書課の今田さやか 営業課の片岡 丈
企画課の上条達哉 そして総務課の私。
入社してから仲が良く
何だかんだと月1で飲んでいた。
そして昨日の同期会で以前から付き合っていたさやかと丈が結婚すると報告があった。
そんなおめでたい雰囲気の中、彼氏と別れたとは言えず…
二人の結婚が嬉しくてと言いながら、浴びるように飲んでしまい…潰れてしまった昨日。
私は歩くのもままならず、
見かねた上条が送ろうとしたがタクシーで熟睡した私から詳しい住所を聞き出せず、仕方なく家に泊めてくれたらしい。