虹架ける僕ら
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4月。私が通うことになったのは、家のすぐ近くの公立高校だった。

祖母の親戚がいるとか何とか。

新しく建て替えたばかりの高校で、倍率が高く、もう定員には達していたが無理を言って入れてもら

った。どうしてこんな田舎に人が集まるのかちょっと謎だったけど。それと、あんまり制服が可愛く

無いのに。本当、謎。

本当に、何にもいい所なんて無いのに。高校生が集まるようなお店も、おしゃれなカフェも。

いい所を無理矢理、挙げるとすれば、星が綺麗な所だ。これはきっと、都会じゃ味わえない感動だと

思う。

ちなみに一応進学校だったけど、初めに受験した高校とは比べ物にならないくらいに偏差値は低い。

しかも、隣にある中学校からそのまま進学する人も多いらしく、この辺りの学校に通っていなかった

私は上手くやっていけるかどうか、正直自信が無かった。

「はぁ…」

実を言うと今日は入学式で、私は昇降口の前で受付を済ませたのだが、どうしてか中に入る気になれ

ずに立ち尽くしていた。

やだなぁ、と。

これからの学校生活が憂鬱でしか無い私が、溜息をつくと、どこからともなくふわっと桜の香りが漂

ってきて、私はその香りに誘われる蝶のように学校の裏手にある、桜の木に導かれた。

ーー狂い咲き。

そんな言葉が似合うだろうか。枝に零れ落ちそうなほどの薄紅の花を付け、見事に咲き誇っている。

「わ、綺麗…」

心なしか、重かった身体が少しだけ軽くなったような、そんな気がした。

サーッと、一陣の風が舞い散る桜の花びらを、天高く巻き上げる。

思わず私は目を瞑った。そして、風が少し弱まったのを機に、双眸をゆっくりと開く。

ーー世界が、止まってしまったかのように、私はある一点に釘付けになった。

風に揺れる、まるで空の色が透けて見えてしまいそうなほど透き通った黒髪。雪のように白い肌。ス

ッと通った鼻筋に、整った唇。そして、長い手足。どこか違う世界から飛び出してきてしまったよう

な男の人が、桜の木に向かってカメラを向けていた。

(…綺麗。)

心からからそう思った。周りの桜に負けないくらいか、それ以上にその人は"綺麗"だった。

"可愛い"や"カッコいい"という感情を人に対して抱いたことはあるが、"綺麗"という感情を人に対して

抱いたのは今日が初めて。

そんなことを考えながら見つめていると、その人とばっちり目が合った。

澄んだ黒目がちの目が私を見つめる。その時。

「コラァ!!お前ら何してんだ!」

背後から急に大きな声がして、私は「ひゃっ」と声を上げた。

振り向くと、スーツをきちっと着こなし、髪の毛をオールバックにしている背の高い男の人ーーちょ

っと厳ついけど多分、先生ーーが腰に手を当てて怖い顔をしている。

「星野と、望月だな。もう入学式始まるぞ!早く来い!」

(...怖い先生だなぁ。顔と、格好が。)

私たちは慌てて先生の後に続き、無事入学式に参加した。



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