虹架ける僕ら
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「反省したら、教室に来いよ。」

そう言って先生は生徒指導室から出て行き、生徒指導室には咲舞と望月葵人の2人きりになった。2人

は先生が扉を閉めるのを確認してから正座させられていた足を崩す。

「望月…葵人くんだっけ?」

咲舞が隣でカメラをいじりだした彼に聞くと、こちらを向いて思わずドキッとしてしまうような爽や

かな笑みで頷いてくれた。

「うん。望月、葵人。葵人でいいよ。あんたは何ていうの?」

「星野咲舞。えまは、桜が咲くの咲くに、舞いを舞うの舞うで咲舞。私も、咲舞でいいよ。」

「へぇ、綺麗な名前。」

自然にそういう事を言うからまたドキッとした。

そして私は、本題に乗り出す。

「ねぇ、葵人くん、さっき写真撮ってたよね。」

流石にいきなり写真を見せてとは言いづらいから、遠回しに言ってみる。すると葵人は私の意図を汲

んでくれたみたいで、最初は驚いたように目を見開いていたけど、すぐにニコッと笑って「見る?」

と首を傾げた。

咲舞が頷くと、葵人は首に掛けていたカメラを外して咲舞に手渡し、写真を見せてくれた。

ーー心が高鳴る。こんな感覚は初めてだった。

カメラの画面に映された写真は、見ているだけなのに、今にも動き出しそうだ。

路上に寝転ぶ猫の写真は猫が息をしているのが聞こえてきそうで、鮮やかなオレンジ色の夕焼け空は

手を伸ばせば届きそう。道端にそっと咲く、一輪の花は風を受けて今にも揺れ出しそうだ。

綺麗や、感動した、じゃ表せない。見ているだけで幸せで温かい気持ちになる。

何枚か葵人の撮った写真を見て、すっかり虜になってしまった咲舞は葵人に向って「すごい!」と目

を輝かせて言った。

「ありがとう。…写真部、来る?俺、写真部に知ってる先輩がいて、前から部活に参加させてもらっ

てるんだけど、楽しいよ。1年はテスト明けに入部だから、まずは今日の部活紹介に来て、それから仮

入部って形になると思うけど。」

咲舞は「入る!」と即答し、もう一度葵人の写真に目を向ける。

(私にも、こんな写真撮れるかな。)

「じゃあ、放課後部室来て。東階段登って三回の突き当たり。」

葵人は立ち上がって、ぐぐっと背伸びをし、「そろそろ戻ろうか。…反省はしてないけどね。」と笑

って見せた。



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