僕たちは呼吸をやめた。
「...馬鹿だね、君は」
"ごめんね"と目を伏せて
「...もう少しだけ、側にいさせて」
そう言って、彼女の震える腕が、遠慮がちに僕の背中にまわされた。抱き締め返すことのできない僕に、それでも彼女は、何度も"好き"と譫言のように呟く。
「迷惑だよね」
その言葉が、ぽつりと僕の中に、落ちた。
否定の言葉も、優しい言葉も、慰めの言葉のひとつも吐けない僕を、酷い男を、見捨ててくれればいい。忘れてくれればいい。追憶の欠片にも残らないない程、幸せになってくれればいい。