瞬間、恋をした
俺の出した声に、高梨さんはぎょっとした顔で「なんで」と口に出した。
"なんでここにいるの?"とでも聞こうとしたのだろうか。
――初めて聞いた彼女の声は、思ったよりも高くて、優しいものだった。
「わ、悪い。 見かけたからお礼を言おうとして追いかけたら……」
足元にいた猫も、気がつけばどっかに行っていた。
高梨さんは、いつもの無表情で、その場にゆっくり立ち上がった。
「ジュース、ありがとう」
胸がドキドキして、鳴り止まない。
あぁ、やばいなーこれ。
しかも声は上ずるし、だっせえ……。
俺の言葉に、高梨さんは小さく首を横に振った。
そしてすぐにこの場を立ち去ろうとした。
だけど俺は、つい横を通り過ぎようとした高梨さんの腕を、気がつけば掴んでいた。