瞬間、恋をした
◇
初めて彼女の声を聞いた、あの日から1週間。
俺は学校で高梨さんのことを見かけるたびに、近づいては、一方的に話しかけていた。
「なあ、翼」
せっかく、部活が休みの日の放課後。
それなのに、日直のくせに日誌を書くのを忘れていた翼は、先生に「書き終わるまで帰るな」と言われ、残されている。
まあ、もともと俺は翼と駅前のラーメンを食べに行く約束をしていたから、こうやっていっしょに残っているんだ。
「なんだよ。黒板掃除は終わった?」
すると、翼はペンを書く手を止めてから、顔を上げてそう聞いてきた。
黒板掃除も日直の仕事だ。
それを俺が手伝って早々に終わらせてやったてのに……。
「そんな怖い顔すんなよ、冗談だって。手伝ってくれてありがとな」
そう思ってたときに、翼は大きく笑いながらそう付け足して言った。