涙の雨と僕の傘
笹原明人の献身

すん、と。

鼻をすする音が、静かな教室にやけに大きく響いた。


「そんなこと繰り返して、中2から付き合ってもう3年。アイツが浮気した回数は、私が知ってるだけで両手じゃ足りないくらい」


教室の窓から外を見つめ、そう語るのはクラスメイトの女子。


名前は確か……名瀬。

下の名前は覚えてない。



「言い訳もいっつも同じ。女友だちと遊んでただけで、浮気じゃない。好きなのはお前だけだって」



図書委員の当番を終えて、鞄を取りに教室に戻ると、名瀬がひとり残っていた。

俺の席の前に座っていて、泣いている横顔に驚いた。


話したこともない相手だし、正直そのまま帰りたかった。

でも、泣いてる女子をムシして帰るのも、人としてどうなんだろう。


迷った末、俺は彼女のひとりごとみたいな愚痴を、こうして黙って聞いている。

とんだとばっちりだ。


女子は苦手だし、恋愛事なんて面倒だし、興味なんかまるでないのに。


でも、


「好きだよって言われても、ウソつきって思う。だってそうじゃん。好きならなんで浮気すんの?」


名瀬は、真剣だ。


真剣に悩んで、傷ついてる。

それをくだらないと、バカにする気にはなれなかった。



「なんで嫌いになれないの? どうしたら嫌いになれるの? こんなんじゃ、いつまで経っても別れられない……」



彼女にここまで想われてる男は、幸せだと思った。


なのにどうして浮気するんだろう。

贅沢だ。

きっと後悔する。

悔い改めろ。



気づけば名瀬の浮気彼氏を、心で罵倒していた。
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