涙の雨と僕の傘
彼氏の真似らしい言い方に、笑いがこぼれる。

どうして殴ろうと思ったか聞けば、平然とこう言われた。



「だって笹原のが100倍かっこいいし。アイツがモテんのは、軽くてチャラチャラしてるから女の子が寄ってってるだけだもん」



100倍かっこいい。


お世辞というか、彼氏をけなす為の大げさな比較なんだろうけど。

まんまと高揚する自分がいた。



そうか……。


俺は、名瀬にかっこいいと言われて、嬉しいのか。



なんて、不毛な。



「でも、名瀬にとっては、彼氏の方がかっこいいんでしょ」

「はあっ? そんなわけないじゃん」



唇を尖らせる名瀬に笑う。


そういう君を、俺は好きになったんだ。



「名瀬はバカだよね」

「ちょっと。ケンカ売ってんの?」

「バカだけど、健気で良い彼女だと思う」



本音をそのまま口にすれば、名瀬はわかりやすく照れた。


可愛いと思う。

素直で、一途で、健気。


名瀬が可愛ければ可愛いほど、浮気ばかりする彼氏への罵倒は増える一方だ。



久しぶりに、名瀬が彼氏の愚痴を口にした。

チャンスとばかりに、別れればいいのにと言えば、それができないから困っていると言う。



嫌いになれない。



前にも名瀬は、そう言っていた。

好きだから、別れられない。

嫌いになりたい。



「別に嫌いになる必要はないと思う」

「それ、前も笹原言ってたよね。どういう意味なの?」

「さあね」
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