彼女のことは俺が守る【完全版】
 自分を落ち着けるために必死にコーヒーを飲む私の前で、海斗さんはいつも通りの穏やかさを醸し出している。そんな海斗さんを見ているとそれだけで少しは気持ちが楽になる。私は一人ではない。いつもはコーヒーを飲みながら色々な話をするのに、連絡事項のようなやり取りを繰り返し、二人での時間を過ごしていた。


「里桜」


「大丈夫か?」


「はい」


 海斗さんが私の傍には居てくれることが今の私の支え。もし一人ならきっと結婚式に行くこともなく、自分のマンションの部屋で一人、苦しさに涙を滲ませていたかもしれない。そう思うと、今の自分の置かれた状況に感謝する。海斗さんが居てくれるだけで私は少しだけ勇気を持つことが出来る。

 
 本当にどうしたらいいのだろう?


 今日は私にとっての正念場だと思う。元彼である優斗と元友達の結婚式に出席しようというのだから、考えてみれば酔狂だろう。でも、それでも、私が行こうと思うのは海斗さんが一緒に居てくれるからだった。俳優とか芸能人とかそんなことではなく、海斗さんが私の傍に居てくれるというのだから、私は勇気を振り絞って結婚式に参加する。


 ある意味、自分の中での賭けでもある。どう転ぶか分からない。でも、あの時に体中に感じた痛み以上なものはないだろう。


 時間は午前九時を過ぎた頃のことだった。
 
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