Rainy's Love.
「初めまして」
そう言って 私に微笑みかける彼
整った顔立ち
高い身長
落ち着いたトーンの声
そして……懐かしい香水の香り
「...ごめん遥香、ちょっとトイレ行ってくる」
「ちょっと留梨奈、どうしたの?大丈夫ー?」
「心配しないで。一気に呑み過ぎただけだから」
逃げる様にカウンターを離れる
すれ違いざまに鼻を通り抜けた香りが
私の目頭を さらに熱くさせた
「...ッ」
訳も分からず ただ必死で
トイレに入るとストッパーが外れたように
涙が溢れた
「何でよ...っ...なんで、ッ」
久しぶりに見た君の顔は
何一つ 変わっていなくて
でも 少し大人びて見えて
あの頃を思い出させるには充分だった
「こんな再会なら...しない方が...ッ」
“しない方が良かった”
そう言い切れない所が私の弱い所
「──ごめん、お待たせ。」
「大丈夫?ほら、特等席。取っておいたよ!」
「あぁ...紫都さんが座って全然良かったのに」
“紫都さん”という呼び方に
また 胸が締め付けられる
「そんな事より!紫都くんの知り合いに留梨奈に似てる人がいるんだって!」
「どことなく似てるんだ。偶然って凄いな」
「まさか留梨奈本人だったりして〜っ」
極力 顔を合わせないで
私はグラスを見つめながら呟いた
「気のせいだよ」
上手くやれば
紫都は私が私だと気付かない筈だ
...だって 私達はそういう関係だったから。
知っているのはお互いの呼び名だけ
それ以外は何も詮索しない
私は“ルリ”と呼ばれていたから
紫都は 本名を知らない
メイクも夜向けでしか会った事が無かった