彼女は僕を「君」と呼ぶ
目的が違うのだから仕方がないのだが、昼休み時間は格段に会話が減る。
腹が満たされて、維の思考が緩むからだ。

元々彼女からの言葉はない、維が話さなければ辺りはシンとして、遠くで聞こえる賑やかな声が聞こえてくるだけ。

何より今日は暖かい。久しぶりに暖かな気候と腹が満たされてうつらうつらと眠くなる。

目の前の彼女はこちらには目もくれず、ドキドキは何処か遠くに行って帰ってこない。

尻の冷たさは慣れないが、座り込んで彼女越しに空を見るのは中々悪くない。

こういう時、島崎にでも相談でもすればいいのだろうが、それをしなかったのは、唯々平穏な空間が崩れる事を危惧したのと、その目に映る事が出来ないと知っていたから。

何より、誰にも知られたくない。好きな人の為に目一杯背伸びをしている彼女の事を。勝手なもんだ。


そんな事を考えて瞼を閉じた。ほんの一瞬のつもりだった。が、次に開いたのはチャイムの鳴る音。

慌ててポケットから携帯を取り出し確認するが、五限目を知らせるもので一息つく。

急に暖かくなると気が抜けて駄目だ。あまり気を入れている時もないが。

「そろそろ行かないと」
「私はまだ大丈夫。予鈴だし、次は自習だから」

「いつまで見てるんだ?」なんて気安く言葉をかけれず、一層の事、理解しない自信満々な奴になりたい。

「お前は俺だけを見てればいいんだよ」なんていう奴に。

あぁ、それだと彼女は此処に置いてくれないかもしれない。
頭で描いたイケメンを追い出し、冷えてしまった尻をさすった。

朗らかな陽気も、やはりは冬の一過性のものにしか過ぎない。春はまだ遠いのだ。
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