彼女は僕を「君」と呼ぶ
だからどうした?せめてそれくらいは返してほしいと心の中で唱えた。

まぁ、言ってみただけ、彼女が喜ぶかもしれないから、あわよくばクラスメイト気分を味わえるかもしれないという邪な思いの元の軽はずみの発言。

聞き逃されてしまっただろうか、一歩、扉の向こう側へと足を伸ばすと、ドンと背中に衝撃がぶつかった。

「素敵な報告ね」
「…ほんとう?それはよかった」

向こう側の扉が開いた音はしない。彼女の声が何時になく近く、維は一つ息を吸った。

普段、呼吸はどうしていたかと問いたい程に上手く酸素が取り込めず、ひゅ、などと奇妙に鳴いた。

今にも跳ね出しそうな胸に制止を掛けて、ゆっくりと首だけで振り返ってみる。

彼女の身体はぴたりと寄せられて肩程辺りに顔があった。満面の笑み、息も掛かりそうな距離に顔が近づく。

あぁ、その顔は初めてだな、なんて。
これで多分、維が4組であることは覚えてくれただろう。

以外にも冷静な頭だけは褒めてやりたい。
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