彼女は僕を「君」と呼ぶ
「ほんと何でもないから。偶然」
「そう遠慮するなよ」
「余計なお世話。おれに他の本命が居たらどうするんだよ」
「え!誰!?」

新た話題にすぐさま、食いつく島崎の頭を維は一つ叩いて席を立った。
ブーイングの様な、つまらないと声を上げる言葉を背中に浴びながら教室を出る。

教室の温まった空間から出た、廊下の寒気が肌にピリピリと突き刺す。

しまった。マフラーを巻いてくるべきだった。振り返れば直ぐに戻れる距離ではあるが、今戻って島崎と鉢合わせるのだけは避けたい。

態々マフラーを巻いて何処に行くのだと問われても厄介だ。ついてこられたら尚更。

維は一度大きく深呼吸をして、冷たい空気に慣れるべく、全身へと回した。

鼻の奥が泣いた時のように痛い。
硝子窓を揺さぶる北風を視界の隅に捉えて足を進める。
< 2 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop