彼女は僕を「君」と呼ぶ

西館一階の奥。陽の当たらないそこに置かれた理科室はいつ行ったって冷え冷えとする。

吹き込む風の種類が違うのかもしれない。
これならばまだ渡り廊下の方が陽が差し込む分暖かいだろう。

教室の中も寒かったが、締め切られたそこは人の温度で一定を保った上で慣れてくるものだ、廊下の冷えと来たら容赦ない。

「おーい、入口でぼさっとしてんなよ、詰まるだろ」

前髪を攫っていた横風に身を小さくさせていると、後ろから島崎の膝で前へと押しやられる。

廊下からはビュウ、と風が通り抜ける音がして一層外に出たくなくなるのに。

本日最終限に限って、珍しく移動教室へと授業内容が変更した。否、先週そう言っていたかもしれないが維は聞き覚えがなく、その際もこうして島崎に背中を押されて教室を出た。

しつこさと、煩さを抜けば彼はすぐにだって彼女が出来る程に面倒見が良いのだ。

「廊下に出ると寒いんだよ。直ぐ外だし」
「じゃぁずっと居ろよ此処に」

冷たい事を言う島崎にタックルしながらもつれて廊下を歩く。

理科室を出て向かって左側、短い廊下を行けば、中庭に抜けられる扉がある。

誰が開けているのかは知らないが、ご丁寧にその扉と外壁に設置された金具とをロープが繋ぐ。

風に揺られて軋む音さえすれど、閉まる事はない。この外へと繋がる道へと行けば駐輪場へと抜ける事が出来る。彼女を初めて見かけた場所だ。
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