彼女は僕を「君」と呼ぶ
何故、そこだったか。

暫くして、中庭で生徒と戯れる小野寺教諭と、その一直線上に食堂であった事を発見した。
ボールを足で器用に捌いている姿に、小野寺教諭はどうやらサッカー少年だったらしい。県大会にも出場経験がありその応援に何度も駆け付けたという。

まるでヒーローでも語るような口ぶりで話される彼の武勇伝は聞き飽きて、たまには、小野寺教諭の失敗談なども聞いてみたいものだ。

吹き込む冷たい風に身を縮ませながら足を進めると、反対側の窓の向こう側で彼女を見つけた。

「あ、」

思わず漏れてしまった声を手で隠すが、島崎らには届かなかった。それに安心し、窓辺へと足を向けた。

体育だったのだろう。明るい緑色のジャージに身を包み、何を話しているのか、時折、友人達と笑いあってこちらに歩いてくる。これまた見たことのない表情である。

外と中、彼女は気づかないだろう。それをいいことにその姿を目で追う。

一つ強い風が吹いて、外から吹き込んだ風が角を曲がって冷気だけを維にも伝えた。

彼女らはこぞってその長い髪を抑えたが、今の流行りなのか、どちらを見ても真っ直ぐ伸ばされた髪の子が多い。

あの真っ直ぐな髪はあまり好きではない。どうせならもう少し短くふんわりとした髪が好きだ。

彼女に維の意見が採用されることはないだろうが、あの長い髪はなんだか威嚇しているように見える。
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