彼女は僕を「君」と呼ぶ
「晩御飯を一緒に食べたの」
「へーよく来るの?」
「ううん。久しぶり。その後、勉強を教えてもらってね」
「英語以外も得意なの?」
「うん、先生ここの卒業生でね、生徒会長まで務めたんだから」
「それは凄い」

彼女と並んで、彼女の話に合わせてやる。喜々として話される話題は小野寺教諭の事ではあるが、どうして自身を待っていたのだろう。

休憩中はふらりと居なくなるにしても、彼女に友人がいない訳ではなさそうで、とても仲が良さげだった。

女の間の事は分かりかねるが、少なくとも虐められているといった印象はない。

決して悪い事はしていないが、親類が居る学校で彼女は優遇しされるのではないかとやっかむ者がいないとは限らない。

学校にいる中で、どうしても小野寺教諭ではなくていけない事もないだろうし、その兼ね合いからか、彼女との繋がりが見えては来ない。

見えてこないから、きっと、彼女が友人らと共に恋バナなんてものに花を咲かせられないのかもしれない。

あくまで小野寺教諭は手の届かい存在。彼女達はもっと手の近く現実味のある会話を期待しているのだろう。

ならば尚更、維の存在は貴重である…好きな男の話を聞かねばならないという点を除いてだ。

それは何か、おれにしか言えないから聞いてもらいたかったという事だろうか。

そこまで行き当たり、うずうずとした様子からやはり誰にも言っていないのだろう。
あんなに楽し気に友人達とお喋りしていたくせに、肝心の事は言えない。

どんな理由であれ、それってなんだか嬉しい。じわじわと胸の中心が温かくなって、なんだかむず痒い。

やはり男というのは馬鹿に単純だ。

< 26 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop