彼女は僕を「君」と呼ぶ
満島棗(ミツシマナツメ)。初めて彼女を見かけたのは、校庭のイチョウの木が黄金色に変わり、高校に入って二回目の文化祭が終わった頃だ。

中庭から駐輪場へと抜ける校舎と校舎の間、天辺に昇りきらない太陽が校舎に光をぶつけ、そこには濃い影が落ちていた。

こう言ってはなんだが、特別可愛い訳でもスタイルがいい訳でもなく、格段目を惹く存在ではなかった。

ただ、目を惹いたのは、地面から浮いた踵。
何も遮るものもないのに、彼女は懸命に背伸びをしていた。

隣を歩いていた島崎は気づいてはおらず、ネタにする程でもない。

唯々維の目には、変な子がいる。そう不思議なモノを見たような感覚でしかなかった。

けれど、一度彼女という存在を認識してしまえば、自然と視界に入ってくる率も高くなる。

何時も同じ場所に居る訳でもなく、時間が決まっている訳でも、曜日別でもない。

どうしてかその姿が気になり、先にあるものが見たいと思ってしまった。

多分、つま先の減った茶色いローファーのせいだったに違いない。

彼女が誰かを知り得たのは、冬休みを迎える終業式の時。

2年4組。隣のクラスのそれも斜め後ろの列。名前の順の立ち位置で、“は”から後ろだ。

しかし、気軽に声を掛けられる程にコミュニケーション能力に長けている訳でも、自信がある訳でもない。名前は隣のクラスに行って名簿でも見よう。

まるでストーカーの様だが、ここ最近の目標は彼女が誰であるかを突き止める方に重点が行っていて、維には奇妙な達成感さえあった。
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